第792話 更科堀井夏の会

      2022/06/15  

 20 更科蕎麦と江戸野菜を味わう ~

 今日は20回目の更科蕎麦と江戸野菜の会である。
 平成27年秋から令和4年夏までの7年間に、皆さまへ供した御献立は計143品にも上る。すべてグー先生こと林幸子先生(江戸ソバリエ協会理事)の優れた脳と手から生まれたもの。もちろん二度同じ料理は作らないという考え方からすべて創作料理である。ここが驚異と敬意の念をいだくところである。
   皆様方からも「この会でしか食べられない料理」といつも絶賛と待望の声が上がる。

一、寺島茄子の冷やし鉢
   今日は、堀井社長と同席で、いただいた。
   先ず「河合(料理長)の腕も上がったな、たいしたもんだ」と堀井社長が言った。
 生の茄子というのは味も素っ気もない。だけどいい味のつゆで煮ると旨味をスポンジのように吸収して見事に変身して美味しくなる。今日のは、茄子細かい切り目を入れて素揚げにし、熱湯をかけて油を抜いて、茹でた海老と共に冷や掛けつゆに一晩浸けてある。海老のあま味がほどよい。
 「お」を付けて、上品な「お味」にできていると言いたくなるように美味しかった。これは堀井社長じゃないけれど河合料理長の腕だろう。それともいつも笑顔で、バランス感覚をもった河合さんの性格がお味に出ているのだろうか。 
  料理人にとって、献立の一番最初に出す物が勝負だと言ったのは、たしか天皇の料理番秋山徳蔵だったと思うけれど、冒頭に社長がそう述懐したことは、今日の会の成功を示しているものだと思う。

二、明日葉とトロロのゆる蕎麦掻き
  スプーンで掬った方がよさそうなくらいの柔らかい蕎麦掻きに薯蕷、それに茹でてみじん切りにした明日葉と蕎麦味噌が添えてある。
  口に含むとまるで赤ちゃんの柔肌みたいな優しい感触、そこに平和の祈りが込めてあるような一品だ。

三、つる菜とアグー豚肉の重ね蒸し
   アグー豚のバラ薄切りとつる菜を3段重ねで蒸し、その上にとろみをつけた蕎麦つゆがかけてある。
   肉というのは薄切りでもパンチがある。そのうえに希少な沖縄在来豚として有名なアグー豚はうまい。これを御献立の山場である三の膳に持ってきたのは今日の膳の満足性を狙った心憎い演出だろう。

四、むら芽切り蕎麦サラダ
  むら芽を練り込んで更科打ちにし、さらに生のむら芽と晒した千住葱と合わせてサラダ仕立てにしてある。
  大竹先生の話によると、むら芽の採集には手間がかかるので高価な食材らしい。なのに刺身のつまとしてしか利用されない、そればかりか哀しいことにほとんどの人がつまに手を出さないという。
  この日陰者のようなむら芽を主役に引っ張り出したのが、この一品である。皆様いかがでしたか。

五、鮎蕎麦
  和良川産の稚鮎の唐揚げをのせた掛け蕎麦だけど、さらに鮎蓼オイルが掛けてある。鮎蓼オイルは鮎蓼を湯通しして、油と共にミキサーにかけてペーストにしてある。
  これには驚いた。鮎蓼ペーストを箸でゆっくり拡げて、蓼つゆを少し啜ると鼻腔と舌先に緑の味が前味として舞う。油は太白だというのにまるでオリーブオイルのようである。本味は噛んだ稚鮎とつるつるの更科蕎麦の触感、そして飲み干した蓼つゆがいい後味として舌に残り、幸せを感じる。
  蕎麦は蓼科蓼属の植物だから、蓼は蕎麦の遠祖のようなもの。だから合うはずと目の付け所に「参りました」と感心する美味しさだった。

六、枇杷のコンポートゼリー
  締めは、旬の枇杷のコンポートゼリー。枇杷は一般的には西日本に多いが、東京では小金井と三鷹産が最近知られるようになった。
  甘い物とお酒は平和の使い。皆さんの和んだ顔が素晴らしい。
  お蔭さまで、20回目も美味しく楽しい会だった。 
  感謝感謝!

〔江戸ソバリエ協会
 ほし☆ひかる〕