第844話 江戸蕎麦と刀削麺の長さ

      2023/06/23  

 近所に中華料理店がある。《刀削麺》を看板にしているが、《焼き餃子》も美味しい。いつもジュジューと音を立てながら鉄板餃子が運ばれてくるが、この餃子は皮が美味しい。なのでどんな粉なのかを尋ねようとするが、従業員は中国人ばかりのため会話が成り立たず、まだ答えが得られていない。
 今日も、《鉄板餃子》と《刀削麺》を注文した。
 ご承知のとおり中国は麺発祥の地であるためか、いろんな麺の作り方がある。引張麺、押出麺、刀削麺など。引張麺や刀削麺なんかは料理人というより職人芸といった方がふさわしい。
 一方のわが国は、麺が登場した室町時代からすでに切麺が見られ、以後も切麺一本である。なぜそうなのかは分からないが、私はよく切れる日本刀文化が下地にあるからだろうと考えている。

  さて、ここで申上げたいのが、中国と日本の麺の長さのことである。とくに江戸蕎麦の長さには驚くべき視点がある。
  中国麺の作り方は多様だが、麺の長さも様々であ。いま口にしている刀削麺は庖丁の角度によって長さを調節できると聞いているが、それでも麺としては短い。反対に新疆ウィグルの《ラグマン》なんかはとんでもなく長い。
 ところがである。江戸蕎麦を打つ人はご存知であろうが、江戸時代の江戸蕎麦麺の長さは決まって24㎝だった。それは箸で掬って口までの長さが24㎝というところからきている。つまりは食べる人が食べやすいような長さに切っていたのである。それを言うと、食べる人のことを配慮して? まさか! と思われるかもしれないが、驚くべきは明治以降は21㎝に切るように変化したことである。なぜか? つまり江戸時代は、床(畳)に器を置いて食べていたから、口までの距離を24㎝として蕎麦麺の長さもそれに合わせて切っていたが、明治以降は卓の上に器を置くようになったから距離が短くなって、食べやすい蕎麦麺の長さは21㎝になったわけである。この変化が食べる人のことを思ってのことという証拠である。
 江戸蕎麦は、江戸の昔から消費者の視点をもっていたのであると言ったら大げさだろうか。そう思いながら、《鉄板餃子》と《刀削麺》を美味しく頂いた。

              〔江戸ソバリ協会 ほし☆ひかる〕