第859話 とんかつの日、蕎麦の日
2023/11/20
~ 味と香りの研究 ~
10月8日は蕎麦の日、10月1日はとんかつの日だそうだ。
だからといって、蕎麦の日に、とんかつの日に、それを食べようという人はあまりいないだろう。私は、ほとんど連日のように蕎麦を食べているし、美味しいとんかつ屋があれば好きなときに食べる。
何故とんかつの話かといえば、今日は友人の三紀さんに声をかけられ、とんかつの官能検査の一員に加わっているからだ。
審査員数は10名、男女は半々、年代は若い人はいないがほぼバランスよい構成、もっとも若い人は量が主だからこういう審査はあまり好ましくないのだろう。そして大事なのは、皆さんは食品学・調理学、栄養士、料理人などの専門家、あるいはワイン、チーズ、蕎麦などの食のプロを自認している人ばかりということだ。
ただし今日の検査内容については秘密保持契約のために明かせない。だけど真剣にやるから勉強になる。だから、いつも機会を作ってくださる三紀さんに感謝している。
というわけで、とんかつの話を続けるが、それにしてもとんかつというのは、実に傑作だと思う。
とんかつは豚肉のうま味と衣のサクサク感がポイントだろう。それにキャベツの日本流の千切りが案外効いている。日本産のウスターソースも然り。
もともと生まれはポークカツレツという西洋物なのに、日本流に油たっぷりで揚げ、しかもナイフを使わなくて済むように最初から切ってある。それにご飯、味噌汁、お漬物、お箸とは、もう完全に和食として育っている。
こんなとんかつの元祖は何処?というルーツ探しをしたくなるが、答えはない。おそらく伝えられているように島田信二郎や煉瓦亭など多くの料理人たちが寄ってたかって世界に類のない「和食:とんかつ」を創り上げたというのが真実であろう。
ところで、この構図は、江戸蕎麦も同じである。
江戸蕎麦の祖というのもない。
一握りに星三つ、二八、饂飩一尺蕎麦八寸、切ベラ二十三本と、蕎麦の打ち方を江戸の蕎麦職人が寄ってたかって競い合い、創り上げたものだ。
そして大事なのは、蕎麦麺が生まれた中国大陸や朝鮮半島では、押出麺、刀削麺、引っ張り麺など様々あるのに、日本では日本人がもっとも得意な庖丁一本に絞ったこと。そして日本産の醤油と鰹出汁でつゆを創り、かくて世界に類のない「和食:蕎麦切」を創り上げた。
これが日本文化なのである。
これで、とんかつと蕎麦がまとまった。
〔江戸ソバリエ協会理事長・和食文化継承リーダー ほし☆ひかる〕