第910話 キングダムⅢ

     

【第3作目~運命の炎】

 蛇甘平原の戦いの後、(山崎賢人)は百人将に出世した。
 との戦争を続けていた。その隙に隣国の大軍が秦国領土へ侵攻してきた。
 秦王(吉沢亮)は大将軍王騎(大沢たかお)を対趙軍の総大将に任命した。王騎(大沢たかお)は総大将を受けるに当たり、秦国の若き王嬴政(吉沢亮)に中華統一についての覚悟を問うた。
 秦王嬴政は了解し、ある恩人との約束について語った。
 ~ 曾祖父昭襄王(草刈正雄)は秦と趙が協定を結び、父(後の荘襄王)美姫は趙の人質となっていた。とはいっても曾祖父は約束を平気で破る王だった。そのために趙はさすがに父だけは冷遇するにとどまっていたが、母子は奴隷同然に虐められた。ただ母美姫はいわく付きの女だった。秦の実力者呂不韋(佐藤浩市)が父に接近するために自分の妾を父に差し出したのである。そうして生まれたのが自分(嬴政)であった。だから弟・成蟜(本郷奏多)が「兄を身分卑しき者」と言うのもある意味当然だった。人質の少年嬴政(吉沢亮)は父も母も頼れなかった。それゆえに少年の心は病んでいた。そんなときに曾祖父が亡くなった。祖父が孝文王となり、父は太子になった。 さすがに趙も人質を返さなけれぱならないうことになったと歴史にはあるが、そう簡単に返しただろうかと作者は考え、父は母子は捨て、一人で自国へ逃げ帰ったとした。
 そこへ救世主が現れた。闇商人紫夏()である。秦の昌文君(高嶋政宏)らは闇商人に嬴政(吉沢亮)の奪還を依頼した。その商人が杏であり、映画でいえば3作目の美女(杏)の登板である。闇商人というとおどろおどろしいが、「裏社会」と言い換えた方が分かりやすい。彼らはスパイもやるし、頼まれたことは命を賭けてでも結果を出す。そこから生まれる〝信用〟こそが裏の世界で生きていける手形となる。加えて紫夏(杏)は心を病んだ少年を何とか助けたいと思った。それは自分の生い立ちもそうだったからだ。「人から助けてもらった恩は返せ」と自分を育ててくれた養父は教えてくれた。杏の持ち味である真面目な眼差しには信頼が感じられる。弱い者にはなおさらだろう。嬴政少年にとって杏は泥沼に咲く蓮の花だった。
 紫夏(杏)と嬴政(吉沢亮)らの逃走劇は、西部劇の『駅馬車』さながらであった。爆走する馬車、それを追いながら放たれるインディアン(趙国軍)の豪雨のごとき止まない矢。杏は手綱と剣を手に、もう少しもう少しと必死で逃げ切る、その直前、嬴政を守って、射られてしまう。杏は虫の息のなかでさえ少年を励ます。「誰よりも偉大な王になれる」と。嬴政(吉沢亮)は「オレは恩人に約束した」と王騎に向かって宣言するように言った。王騎(大沢たかお)はなぜか晴れ晴れしい顔をして戦場へ赴いた。

 そして、第3作目こそが信(山﨑賢人)が主人公の映画である。
 総大将王騎(大沢たかお)は信の百人隊に「飛信隊」という名を与えた。隊長は信(山﨑賢人)、副隊長は羌瘣は(清野菜名)、その上で特殊任務を下した。趙の副将馮忌(片岡愛之助)の首を討ち取れという。敵の頭を潰す策であった。大軍団の奥に陣する副将の首を取れとは、誰がどう考えても無理な作戦だった。だが微かな可能性がないでもなかった。戦略家の馮忌(片岡愛之助)は長距離戦には強いが短距離戦に弱い。だから懐深く突っ込むことさえできれば、首は取れる。接近戦なら、日ごろから無茶ぶりを発揮する、若くて突進力のある信なら。勝った暁には、あの馮忌(片岡愛之助)を倒した部隊として「飛信隊」の名は広く知れ渡るだろう。そうなれば次の戦いから「飛信隊」の名を聞いただけで敵はおじけづく。名はそういう風に使うのだと総大将は若き獅子に教える。
 実際は、王騎(大沢たかお)の読み通りになった。馮忌(片岡愛之助)の頭上に信(山﨑賢人)が降ってきた。馮忌が「ン、何だ?」と思ったときには、もう殺られていた。
 大将趙荘(山本耕史)ともう一人の副将万極(山田裕貴)ら趙軍は退散した。

 杏といえば、ソバリエさんたちと目黒の蕎麦屋さんに行ったとき、その店には杏さんからの年賀状がたくさん飾ってあった。その写真はいずれもお茶目な杏さんばかりだった。演ずるときの真面目な眼差しとは少しちがっていたのを思い出す。

江戸ソバリエ北京プロジェクト
ほし☆ひかる