第922話 蕎亭大黒屋の、芸術的蕎麦寿司

     

 「〇月〇日に、枕崎市の市長さんが来店するから、来ませんか。」
 蕎亭大黒屋の菅野さんからの電話である。行かないわけにはいかない。
 それに、蕎亭大黒屋の、あの芸術的な蕎麦寿司が目にちらついてくる。

 約束の日は、少し寒い日であった。辺りが薄暗くなるころ、店の戸を開けると、二人のソバリエ美女がいた。「何で?」「そうか。この人たちも声がかかったのか」と理解し、「お久しぶり」と握手をし、菅野さんと店を手伝っている「後」さんともご挨拶。そこで初めて事情が分かった。鰹マイスターの資格をもつ「後」さんに続いて、次回はこのお二人が受けるのだという。
 「後」さんもなかなかの作戦家だ、人気のお二人が資格を持てば効果抜群。そして協会代表の私も、応援してほしいというわけだろう。
 考えてみると、〝旨味〟を第一とする日本には出汁素材がたくさんある。
 そのうちの昆布、煮干、椎茸は初心者でも分かり易い。買ってきてそのまま使えばよい。
 それに比べて、鰹節類は少し複雑だ。先ず、節類(鰹節、鯖節、他)と削り節類(鰹、他)があり、両方とも厚削りと薄削りがある。使い分けは勉強していかないといけない。そこがまた面白いところだ。前にチーズを勉強したときに、複雑なチーズ製品をマトリックス式に整理したことがあるが、それと似たようなことが必要なのかもしれない。
 そんなことを考えていると、市長さんが秘書さんとご一緒に見えた。名刺交換をして、席に座るとコース料理が運ばれてくる。
 そして初めに《迎え蕎麦》が出た。妙高の新蕎麦だという。甘皮も交じっているのに、滑らか、これが菅野さんの技だ。もちろん腰もちょうどいい。
 料理は次々と運ばれ、私が「芸術品」と絶賛する《蕎麦寿司》も並んだ。「後」さんはこれを覚えたくて、大黒屋に弟子入りしたくらいだから。そして今宵市長さんたちも感激して食されていた。
 《鴨鍋》もお腹一杯にいただき、膳が一段落したところで、市長さんは蕎麦の実を石臼で挽くことを体験されたりして、「またお会いしましょう」とおひらきになった。

江戸ソバリエ
コムラードオブチーズ
和食文化継承リーダー
ほし☆ひかる