第950話 桃の官能

     

 
 ソバリエ・レディのともこさん・利恵さん・昌子さんと、東村山の「土家」に行こうということになりました。
 黒塀に寄り添うように木賊が茂っています。玄関には石臼も置いてあります。ここが蕎麦懐石「土家」です。店内は落ち着いたモダン和調です。今風に言えば「隠れ家」の雰囲気です。
 さっそく皆さん、お飲み物。それから黙ってても料理が運ばれてきます。
 蕎麦切りは珍しくやや平打ちの、常陸秋そば。
 蕎麦は他花受粉なので形質の均一性が失われやすいですので、品種がなかなか分かりづらいのです、けれど、昌子さんは触感で種類が分かるとおっしゃいます。感性の人ですね。それは彼女の生け花を拝見すれば感じます。凛として生け方です。もちろんともこさん、利恵さんも素晴らしい方たちです。ともこさんの挑戦力、利恵さんの達成力、唸るほどです。
 店の器もすごい。蕎麦猪口はご覧の通り〝サバンナ〟、和の蕎麦にアフリカ象とは意表を突いています。そういえば、入口の所にあったガラスの置物も個性的、ガラスの丸い塊の世界に描かれたお店と店主と女将が立体的に治まっている。これが珍しい。
 料理のお味はもちろん美味しいけれど、組み合わせの妙がなかなかにくいです。たとえば、最後の甘味は水羊羹にとろとろ桃をかけてあります。小豆の甘味はおはぎ・ぼたもち・羊羹など代表的な和菓子だけれど、ちょっと口やお腹に圧を感じます。だけれどこうしてとろとろ桃をかけてありますと、爽やかな酸味と桃独特の官能的な甘味が、何ともいえません。これが〝口福〟なんだろうと思いました。
 だから、皆さん上機嫌で、写真を撮りました。

(自己紹介代わりに、しっかり今期の認定講座のチラシを店主にお渡しいたしました。)

江戸ソバリエ
ほし☆ひかる