第954話 珍事:トンネルとサングラス
ある日のこと、小平で大事な用がありました。池袋から東武東上線に乗って朝霞台駅で下車、そして武蔵野線の北朝霞から新小平駅へ向かいました。
しかしここで驚いたのは、地上を走るJR電車なのに新秋津駅から新小平駅まではほとんどトンネルなんです。下車したとき駅員さんに尋ねますと、長さ約4380mで「小平トンネル」とよぶそうなんです。首都圏でこんなに長いトンネルのある鉄道があることをまったく知りませんでした。
さて、今日の約束は13時です。事前に調べてみますと、目的地まで徒歩7分とあります。でもほとんどが表示の2倍の時間はかかります。しかも初めての場合は+αを加えておかないといけません。なので、12時半から12時40分に駅前を発てばよいので、その前に腹ごしらえです。私はいつも訪ねる当地で食事をとることにしていますから、駅前を見まわして中華店に入りました。店の人は全員が中国人でした。食事のときはサングラスが邪魔になるので、それをジャケットの胸ポケットに入れましたが、食事後は暑くなったので、そのジャケットを脱ぎました。
そこから徒歩で目的地に向かいました。ジャケットはそのまま手に抱えていました。
目的地はあんがい分かりやすかったので、12時50分に到着、約束の10分前、理想的です。私は入口で脱いでいたジャケットを着てから、ピンポーンを押しました。用件は約30分。
そこで失礼して、また来た道を戻りました。7分ぐらい歩いたころです。
視線の先の路傍にサングラスが落ちていました。通り過ぎようとしましたが、ン! 何か見覚えがあります。立ち止まってしゃがみ、手に取りました。エッ! 私はジャケットの胸を探りました。ナイ! 何とそのサングラスは私の物だったのです。中華店でサングラスを外してから、今の今まですっかり忘れていましたが、まぎれもなく私のサングラスでした。
私は、小一時間も私を待っていてくれたサングラスに労いを言いながら、何事もなかったようにサングラスをかけて駅へ向かって歩き出しました。
エッセイスト
ほし☆ひかる