第120話 鳥原平の新蕎麦まつり

     

お国そば物語⑧名水蕎麦

 ☆鳥原平の蕎麦

 遠藤周作のエッセイに「悠々とお茶を喫す」というのがある。

畠の向こうには青い山脈が拡がっている。白い雲も悠々と浮かんでいる。その雲を見ながらゆっくりお茶を喫している老人がいる

 遠藤がサマルカンドで出会った光景だという。

 山梨県の鳥原平ビューファームの2階で珈琲を飲んでいるとき、私はその話を思い出した。

 目の前の畠の向こうに、青い山脈が拡がっている。八ケ岳である。白い雲も悠々と浮かんでいる。今朝までは一面霧が立ち、自在に蠢いていたが、今は白い雲がぽっかりと浮かんでいる。その浮雲を見ながら私もゆっくりと珈琲を喫した、のである。

 【鳥原平のビューファームから見る八ケ岳☆ほしひかる

 背後には甲斐駒ケ岳が聳えるが、ここからは見えない。その駒ケ岳を源とする清流が尾白川である。尾白川をふくむ辺りの水は「名水百選」の一つに選ばれている。そんな名水を利用して打った《名水蕎麦》を提供してくれるのが、ここ鳥原平ビューファームである。ただし営業は土・日だけ。チラシには、《名水蕎麦》が旨い理由として、1.名水だから、2.地産だから、3おかあさんたちが打ったから、だとしている。たぶん鳥原平蕎麦を仕掛けた成田重行さんの考えだろう。成田さんという方はNHK「趣味悠々」の蕎麦打ち講師でもあるが、スローフード江戸東京のリーダーとして、東京新宿で内藤唐辛子を復活させたりと幅広いご活躍をされている方である。

 鳥原平には7年ぐらい前に蕎麦畑を求めてやって来たという。以来、同地区のいわゆる「村おこし」に協力され、《名水蕎麦》を営業するまでにいたり、昨年から新そばまつりが実施できるようになった。

☆山梨県白州町第2回新蕎麦まつり

 北杜市白州町の鳥原平ビューファームで開催される新蕎麦まつりは、ボランティアで運営されている。

 今日の麦打ちは、武蔵村山から手伝いに来た蕎麦打ちの会「蕎麦元気塾」の皆さん。《名水蕎麦》は地産らしさを出すため素朴さと太めがウリ。そのため「太切りは慣れてないので、難しい」と蕎麦打ちボランティアの皆さんは笑っておられた。

 いつもは蕎麦を打っているおかあさんたちは、今日は地元で採れた《野菜の天ぷら》、《蕎麦餃子》、《蕎麦コロッケ》作りに回られた。注文を受ける担当もボランティア、地元の特産品を販売するのもボランティア。みんな天手古舞だ。

 会場の一隅では、成田氏指導によるそば打ち体験教室と、小生の拙い「蕎麦談笑」が企画されたが、会場を見て驚いた。お客さんの中に江戸ソバリエさんがいたのである。「東京からいたって便利だ」ということで、数年前からここで蕎麦を栽培しているのだという。「ついでだ」ということで彼らも私の講座の席を埋めていただいた。

 そして、2階では特別出店の、宮崎里恵さん (クッキングサロンリエ主宰) の《朝ガレット》《昼ガレット》《夜ガレット》の《ガレット》が若い人に大好評。《ガレット》は蕎麦粉500g+水1250cc+塩1摘み、をよく混ぜる。それに《朝ガレ》は+ソーセージ+ほうれん草、《昼ガレ》はアイスクリーム+栗ジャム+蕎麦の花の蜂蜜、《夜ガレ》は白州牛+ポテト+春菊が包んである。白州牛はここ白州でしか絶対口にできない奇少価値のある牛。村おこしに熱心なある市議さんは「白州に白州牛を食べに来てほしい」と熱心に訴える。そういえば、かつて「かんだやぶそば」のご店主に「海外へ進出する予定はありますか?」と尋ねたところ「全くない」と即座に否定されたことがある。理由は「日本の蕎麦、江戸の蕎麦を食べたいなら、日本に、東京に来てほしい」と明解だった。このお二方の気持、考え方こそが、地域おこしの根本だろう。

 

【朝ガレット、昼ガレット、夜ガレット】

http://cucinarie.com/

 おかげさまで、2日間の新蕎麦まつりには約1000人の方が見えた。

 宮崎さんのご主人は「鳥原平の風景はトスカーナに似ている」とおっしゃる。そのうちに鳥原平のアグリツーリズムが人気になるりかもしれないと思うと、楽しくなってくる。

 【鳥原平の蕎麦粉】

特産品のうちの、赤い大根と緑の大根

 参考:お国そば物語(1191188966444224)「蕎麦談義」第3052

  江戸ソバリエは東京に隣接する「鳥原平の蕎麦」を応援しています。

 〔江戸ソバリエ認定委員長、エッセイスト ☆ ほしひかる〕