<コンビ二創業戦記・別伝>「DCVS回想録」第17回

      2017/01/24  

<海外視察ツアーの思い出>(その8)

<ローソン時代>(1996~2006)

「日本食糧新聞・海外視察ツアー」について(その3)

今号は、私の海外視察の中でも、特に思い出深い第19回目と第20回目に当たる最終のツアーに付いて書いておきたい。

 ー1999年(平成11年)5月・「日食海外視察」ーー(第19回)

*・テーマ「米国の食品流通の潮流研究・顧客識別対応・HMR食品研究」

*・視察先・「シカゴ(FMI展)・サンフランシスコ・ラスベガス」

*参加者・(雪印乳業)森田さん、(江崎グリコ)中尾さん、

(栄屋乳業)浜口さん、(不二家)吉留さん、

(太陽化学)山崎さん、(ヒガシマル醤油)山下さん、

村瀬さん、(コカコーラ)亀田さん、青木さん、

(ミツハシ)小林さん、(神明)石野さん、

(日本通運)山田さん、と私,計13名。

今回は、初めてアメリカ訪問するという人が多かったので、参加者の皆さんには、フレッシュな緊張感があったように思う。

その様子を、この時に私が書き残した視察日誌で少し振り返ってみたい。

初日、成田空港での結団式では、私は次のように挨拶している。

【最近のアメリカ流通業では、三つの流れが強まっていると言われている。

一つは、「三つのD」、即ち「ダウンサイジング」「ディープ・デイスカウント」「ダイレクト・マーケティング」の進行、

二つは「店頭商品力と顧客囲い込みの強化」、即ち「SCM=サプライチェーン・マネジメント」「カテゴリー・マネージメント」

「ERP=エフィーシエント・リプレツシュメント・プログラム」「CRM=カストマーズ・リレーションシツプ・マネジメント」

「FSP=フりクエント・ショッパーズ・プログラム」の推進、などであり、

三つは、「ソリューション・マーケティング」、即ち「HMR=ホームミール・リプレイスメント」「MS=ミール・ソリューション」の導入強化の動きである。

これらは、大手DSやフードサービス業による激しい攻勢に対して、中小食品SMや独立店等が採るべき対抗策として考え出された施策なのであったが、現実には大手チェーンの方が積極的に取り組み、先行している状況である。

このあたりのアメリカ食品消費流通の最新潮流を、FMI展や各地の店舗視察を通じて、仲良く、楽しみながら、実際に体感して来ようではないか】、と。

 
<全員で・ミシガン湖畔にて>     <全員で会食・中国海飯店にて>

2日目は、恒例のFMI展視察。会場がおなじみのシカゴ・マコーミック・プレイスである。

相変わらず規模が大きく、派手な演出である。

来場者が非常に多い。海外メーカーなどの出展も目立つ。アメリカの活気をひしひしと感じる。

「FSP=フリクエント・ショッパーズ・プログラム」のセミナーを聴講するも、通訳が業界専門用語になれていないため、非常に分かり難い。やや理屈先行の感あり。

毎年のように見学していると,FMI展のメーンテーマは年々変遷して居ることがよく分かり、その背景には、このところのウオールマートなど大型チェーンへの寡占化、集中化が急速に進行して、生き残り競争が益々激化する米国流通の厳しい現実が反映されているのだと思う。

FMIは会員の多数派を占めるローカルスーパー、中小チェーンやインデペンデント店などの生き残り策として、システク改革や顧客重視策、商品の特化などを提案することに重点を置いているように見える。

3日目、TVニュースにてオクラホマで大竜巻が発生、大きな被害が出ていると報じるも、シカゴは快晴である。

シカゴ郊外で、注目のウオールマートが、新業態として出店し始めた近隣型小型店「ネバーフッド・マーケット」と会員制DS[サムズクラブ」ほかを見る。この店は期待はずれであった。余り新味と迫力を感じなかったからである。

私は帰りのバスの中で、

【「ウオールマート」は、今や流通分野においては名実共世界第一位であるが、全産業においても、GMなどとの世界一位、二位を争そう大企業である。創業は1972年、サム・ウォルトンが、アーカンソー州の小都市で開業したのが始まりであり、歴史は30年ほどの企業である。

サム・ウォルトンは、『地方の中小都市の人々に生活上の幸福を提供する』ことをモットーに、その頃の小売りトツプ企業、シアーズやKマート、J・Cぺニーなどが展開していなかった地方の中小都市(人口8000~15000人程度)に、集中的に出店していったという。

以来約30年、ウオールマートは、全米は言うに及ばず、今や世界各地に出店している断トツの世界一小売業となっている。

ウオールマートの成功物語、成長戦略を語るとすれば、数冊の書物を要しようが、店頭で見受けられた現象から判断して、あえて独断と偏見で要約すれば、次のようになろうか。

①・従業員教育とモラルを重視していること = 全員が「YOU ARE THE BOSS」のゼッケンをつけている。

②・地域コミュニテイとの蜜着度が高いこと = 店舗入り口に必ずヴェテラン・グリーターを配置して、10フィート以内で「スマイル挨拶」を励行している。

③・セーフ&クリーンに徹していること  =トイレをグレードアツプし、パーキングで新聞が読める明るさにしている。

④・世界一の情流・商流・物流インフラを構築していること=米国政府を上回る情報システム網、世界的商品調達網と物流網を構築していると言われる。

⑤・広告宣伝費を使わず、口コミ重視とローカルラジオを活用していること=当時の宣伝費は、シアーズ15億ドル、Kマート7億ドルに対し、ウオールマートは1・5億ドルということであった。

⑥・社会性を重視していること=世論に敏感で、バイアメリカン運動やエコセンターの設置に熱心に取り組んでいる。

⑦・新業態「スーパーセンター」(=従来の非食品中心に加えて、食品分野を併設販売する超大型店)の確立と、近隣型の食品を中心とする「ネバーフッド・マーケット」=近隣型SM業態}の開発を推進していること などを挙げることができる】、

と解説している。


<ホールフーズマーケット>

4日目、今躍進中と注目されている健康食品チェーン・「ホールフーズマーケット」のシカゴ市内の店を、じっくりと見学できたのは幸運であった。

ストアーマネジャーが親切にも、お店の食品加工調理場やバックヤードまで案内し、丁寧に説明してくれる。

「ホールフーズマーケット」は、1980年にテキサスで1号店をオープン、1989年カリフォルニアへ進出。以後、新規開店や買収を重ねて、その当時全米に98店舗を超え、毎年二桁成長して絶好調の業績を示しているとのことであった。

幾つか気が付いた点を上げると、

①・青果物の70%はOGBA(オーガニック食品認定協会)認定証付きであること=青果物うりばには4色のタグ説明ボードあり。

赤=有機栽培モノ、オレンジ=有機栽培転換中のモノ、白=地場モノ、青=一般栽培モノ

②・価格は他チェーンと比べて2~3割高

③・対面デリカ売り場はHMR対応していること

④・顧客層は、高学歴、高所得が多いこと

⑤・97年9月度売り上げは前年比118%、税前利益は178・8%

⑥・2003年目標は、全米140店舗とのことなどである。

このチェーンのコンセプトは、まさに時代の最先端をいくものではないかと感じたものである。

日本でローソンがスタートさせた健康志向コンビ二・「ナチュラル・ローソン」の先行モデルは、この「ホールフーズ・マーケット」にあったといえよう。残念ながら未だに完成型にいたっていないようだが、目指すコンセプトは素晴らしいものであり、今後の進化に大いに期待したい。

5日目、サンフランシスコにて、インデペンデントの高級志向SM・「ドレイガーズ」を視察する。

店の経営者が応対してくれる。現在3店舗経営。自店の品質レベルを維持するのは難しいので、チェーン化は目指さないとのことである。

HMRと生鮮食材に力を入れており、大手には負けないと豪語していた。店内の造作も豪華で、落ち着いた雰囲気のお店である。

所得の高い顧客層に支持されているようだ。

 

<写真ドレイガーズ氏と>       <ドレイガーズの店舗の由来>

その外、「トレイダージョー」「ボストンマーケット」「ラッキー」「セーフウエイ」などを見学する。道々、ホームレスが非常に目立つ。アメリカの好況の裏側を見る思いがする。

6日目、サンフランシスコ市内のスーパーKマートやフィッシャーマンズワーフなどを視察して空路ラスベガスへ。

ラスベガスは約10年ぶりだが、非常に変わった印象を受ける。ホテルも混雑していて、米国経済の好況を窺わせる。

7日目、ラスベガス郊外のアウトレットセンターなどを視察の後、市内自由見学する。

夜ホテルにて、ツアー打ち上げ感想会で、「21世紀は新商業の時代」をテーマにお話をする。

 

ーー2000年(平成12年)5月・「日食海外視察」ーー(第20回)

*テーマ・「米国の食品流通競争優位戦略に学ぶ」

*視察先・シカゴ(FMI展)・ロチェスター・イサカ・ニューヨーク・サンフランシスコ

*参加者・(アンド)近藤さん、(理研ビタミン)千国さん、

(石井食品)長島さん、(東京農業大学)芦川さん、

(ナガノトマト)鈴木さん、 (コカコーラ)石田さん、畠山さん、

(雪印アクセス)香川さん、(加ト吉)佐々木さん、加藤さん、

(雪印食品)小林さん、(ニッコーレン)本間さん、宗像さん、

(雪印乳業)佐藤さん、(フレツシュフーズ・サプライ)岩重さん、

(明治健康ハム)青島さん、(丸大食品)寺田さん、

ナックス・ナカムラ)中出さん、(新川運輸)上野さん、

(日本食糧新聞)今野さん、大川さん、

(日本通運)山田さんと、私の計23名。

今回は日本食糧新聞社の今野正義社長と大川部長も初めて参加して総勢23名となり、終始賑やかな活気に満ちた、私にとっても記念すべき最後のツアーとなったのである。

 

<全員でFMI会場にて>                        <ミシガン湖畔にて>

今考えると、翌2001年9月11日に、かの悪名高き、悲劇的な同時多発テロが発生して、米国は言うに及ばず、日本を始め全世界の空気と経済の動きを暗転させたのだから、この2000年が、米国らしい元気さと明るさの名残りを、まだしも感じさせた最後の年であったかもしれない。それから暫くの間は、いろいろな分野でアメリカ視察ツアーが自粛されるようになったのは記憶に新しいところである。

初日に、箱崎で開かれた初顔合わせの結団式で、私は次のような趣旨の挨拶をした。

【最近の米国小売業の中心的な動きとして注目すべきことは、、

一つは、ウオルマートの動きを中心にして回っているようである。その背景には、ウオルマートの次のような動きがあると思う。

①・従来の非食品中心から、食品小売分野に進出する「ドメインの拡大」を積極的に行っていること、

②・ディスカウントストアからスーパーセンターへ、さらにネィバーフッド・マーケットへと「新業態開発を推進」していること、

③・南米、欧州中国、アジアなどへの「積極的な海外進出」などにより、

米国小売業ランキングで断トツ第一位、全産業ランキングでも、GMと第一位を争そう地位にあり、新規参入の食品小売業分野でもすでに5強の一つとなっている。

二つは、インターネツト・ショッオピングへの急傾斜が進行していることである。

いわゆる『CLICK & MORTAL』の時代が始まろうとしていることである。具体的には

①・インターネツトという新兵器を活用しようとの具体的動きが高まっていること

②・ネット専業から、ネットと店舗の両チャネルを融合しようとの動きが始まっていること

③・超大国際的商品調達ネット連合つくりが進展していること、などである。

今回の視察ではこれらの21世紀型グローバリゼーションとIT革命の先行モデルを、この目でしっかりと確かめるツアーにしたい】と。

2日目、シカゴ。 FMI展視察。

3日目、シカゴ。 ドミニクス、ホールフーズ・マーケットなど視察

4日目、ロチェスター。 ウエグマンズを視察する。

<ウエグマンズ店舗ファザード>

ウエグマンズは、1915年創業、2000年時点で店舗数59店舗、年商約25億ドル、従業員2万7000人。ニューヨーク州を中心に全店24時間営業の中堅ローカルスーパーチェーンであるが、当時、経済誌「フォーチューン」の『アメリカ企業トツプ100社』に推薦され、米国最高の食品スーパーという高い評価を受けていた。

コーネル大学ジャーマン教授の肝いりで、効率的に自動機械化されたグロサリー物流センター及びデーリー・フローズンセンターを見学した後、落ち着いた社風を感じさせる本社の会議室で、ウエグマンズ社の歴史や現状についてのオリエンテーションを受けることが出来た。また旗艦店舗内を、店長が質問に応じながら丁寧に案内してくれたのは幸甚であった。

ウエグマンズの印象は、「本当にいい店とは、こういう店を言うのだろうな」、であった。私はウエグマンズの大フアンとなり、「日本にこういうお店があれば繁盛疑いなしだ」、と確信したのである。

私なりにウエグマンズの特徴を総評すると、

①・おおらかなオープンマインドで、グッド・オールド・アメリカを感じさせる社風である。

「I AM A MERCHANT」、で始まる創業者フィロソフィーを、

「従業員満足=ES」と「お客様満足=CS」の両立のカタチで実践している。

社員には、「DO SOMETHING THAT NOONE ELSE DOING」、

お客様には、「EVERYDAY YOU GET OUR BEST。」を提唱している。

②・どっしりと地域に根を下ろした、地元蜜着のSMとして、ローカル・チェーンの生き残り策のモデルとなっている。

お店の歴史をレジの上に飾り、歴史を大切にする姿勢で、人のぬくもりを感じさせている。

③・従業員がプライドを持ち、 売り場をサポートする後方支援の仕組みがきっちりと組み立てられている。

「IF YOU ARE NOT HAPPY。WE ARE NOT HAPPY! LET’US KNOW!」の表示が、店舗エントランスに、掲示されて   いる。

④・マーチャンダイジングでは、100種以上のHMRを対面対応、 安全性で差別化した生鮮青果物のクラシツクな売り方、1200品目にのぼる高品質PBの品揃え、などに注力して、高客単価を実現している。

⑤・料理教室、託児所など他店に見られない多様なサービスを提供している。

ことなどをあげることが出来る。

  

<ウエグマンズ本社前にて>           <パンフと経営理念>

5日目、イサカ。 ホテルにてコーネル大学ジャーマン教授講義「米国流業の現状と展望」を受講後、プロペラ機で空路ニューヨークへ

ジャーマン教授は、ニッコーレン社長本間謙五さんがコーネル大学留学時の先生ということで今回は特別にお世話になった次第である。後日、受講の後全員参加者に受講者証が授与されたのは光栄であった。

 

<サヨナラパーテイ>       <ジャーマン教授と>

6日目。ニューヨーク。 ゼィバーズ、ナッソーパーク&パビリポン、(ウオルマート、ターゲット、ウエグマンズ、サムズクラブ、ホームデポ、ベストバイ、ディックスなど)を視察

7日目、空路サンフランシスコへ。市内視察食品ネット販売セミナーを聞く。ドレイガーズ、コストコなど視察

8日目、サンフランシスコ。午前中ホテルにてミーティング、「食品ネット販売Eビジネスの現状」に付いての説明を聞く。

午後、セブンイレブン、ドレイガーズ、コストコを視察。夜ホテルにて、全員でサヨナラパーテイ。

9日目、サンフランシスコ発の予定が、飛行機故障で変更になり、ロスアンゼルスへ移動して一泊、ロス空港から一日遅れの帰国となる。最後にハプニングが起きたが、ともかくも全員無事で多くの思い出を重ねながら帰国できたのは幸いであった。

それから10年余り経過したが、その間に幾たびか、アメリカは歴史に残る大事件に見舞われている。いわく、「ニューヨーク同時多発テロ」「イラク・アフガン戦争」そして「ニーマン・ショツク」などである。そのたびに米国経済は、世界市場における影響力を低下させてきているように思う。

私自身のささやかな海外視察の経験を振り返りながら、近年の中国やインドなど新興国の急速な台頭に伴い、世界の政治・経済構造が、「米国一極集中の時代から、多極化の時代へ」と、大きく変貌しつつあることを、痛切に感じさせられる今日この頃である。

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