食の今昔物語 12か月の裏表 8月編
八月・・・栄養ドリンク「甘酒」
テレビのコマーシャルでよく見かけるシーンの一つに、疲労回復を強調した栄養ドリンクがあります。有名なタレントを登場させ、1本飲めば疲労が取れ活力があふれ出るという印象を与えるコマーシャルは、いったい何社ほどあるのでしょうか。
昔は医薬品であった栄養ドリンクが1993年3月末から医薬部外品となり、コンビニなどでも販売可能となり気軽に飲めるようになりました。暑い夏を、栄養ドリンクを飲んで乗り切ろう!ということは広く認知され、すでに風物詩となっていると言えるかもしれません。ただこの風物詩は春夏秋冬を問わないのがいかにも現代的と言えるでしょう。
では昔、と言っても江戸時代の庶民は、冷房はもちろん扇風機もない時代にどうやって夏の疲労回復をやっていたのでしょうか。現代のような手軽に手に入るドリンクはあったのでしょうか。
江戸時代、庶民が夏の暑さ対策として親しんだ栄養ドリンクが、現代にも引き継がれています。
その名は「甘酒」です。というと、「えっ、甘酒は寒い時期のものではないの?」「ひな祭りの頃に甘酒を飲んだことがあるけど・・」という声が返ってきそうです。しかし甘酒は俳句の季語としても夏とされています。江戸時代の「甘い、あまざけ~」という売り子の声は夏の風物詩としてよく知られていたことでしょう。江戸時代の暑い夏の水分補給や栄養補給にぴったりの飲み物が甘酒であったのです。この甘酒をもう少し掘り下げてみましょう。
暑さに負けて食欲も減退すれば、エネルギーや栄養素がだんだんと不足していきます。重ねてビタミンやミネラルも不足し始め、日ごと疲労物質がたまり、夏バテという状態になっていきます。それを防ぐのが栄養ドリンク「甘酒」です。
米麹を発酵させ糖質を糖化した甘酒は、必須アミノ酸も多く含まれております。加えて脳の栄養素、ブドウ糖が20%以上含まれている他、疲労回復に欠かせないビタミンB1をはじめ、ビタミン群がたっぷり含まれております。現代の栄養学を学んだ人は「甘酒はまるで栄養補給の点滴みたい」というのも理解できる気がします。
甘酒は、保存性に優れ、滋養成分が豊かであり、独特の風味を持ち、生きている菌を食べるという四つの優れた点を持っている栄養ドリンクです。
「ひな祭りと甘酒」が結びついていた方、きっと「白酒」と混同されているのでしょう。顔の色をほんのりと赤らめた右大臣は、白酒を飲まれたのです。甘酒はノンアルコール飲料ですから、どんなに飲んでも顔は赤くなりません。
ちなみに白酒のアルコール度数は10%前後です。ひな祭りには子供に甘酒を飲ませ、大人はアルコールの入った白酒を飲んだということもあったでしょうね。栄養補給に最適の甘酒ですが、ブドウ糖も多いのが特徴です。糖尿病や肥満に気をつけなくてはいけない方の飲み過ぎには十分注意をしましょう。