第373話 外国人のためのSoba講座

      2016/09/02  

= Eating Education = 朝顔

 服部幸應先生のレジオン・ドヌール勲章シュヴァリエ受章を祝う会がパレスホテルで開催された。レジオン・ドヌール勲章というのは、ナポレオンによって制定されたフランス最高の勲章で、そのうちのシュヴァリエというのは、騎士に与えられるものらしい。もちろん今日の会場で初めて知ったことである。

そういったことと全く縁のない人間だから、どういう経緯で先生が受章されたのかも分からぬままに出席している次第であるが、フランスから見て日本人という外国人に、それを授けることは大きな文化交流になるだろうということだけはなんとなく理解できる。

それにしても、服部学園の理事長の会だけあって、料理は美味しい。そんな美味しい鮨を箸で掴んでいると、偶然に会場でお会いした知人が肩を叩きながら「シュヴァリエって、ソバリエと似てますね」と言ったので、笑っていると、同じテーブルでワインを手にされていたサスペンス・ドラマの女優さんが「あら、ソバリエってあるの?」と興味をもってくれたので、名刺を差し上げた。

そこへ「小松庵」の小松社長 (江戸ソバリエ講師)が顔を出されたので、一緒に服部先生のもとへ行って、ご挨拶をした。

その後、小松社長と蕎麦業界について語り合ったりしたが、私の“思い”はいろいろある。

「食育」にご尽力されている服部先生がおっしゃっている「Eating Education」というのもそのひとつである。

―「食育」は「Food Education」といわれるけれど、食べ方に文化があるから、むしろ「Eating Education」という言葉が相応しい ― と話されたことがあった。服部先生の広い視野にはとても及ばないが、私もちかい考えをもっている。

きっかけは、ある所で外国からの留学生に、「お蕎麦の食べ方」を話すことがあったことからである。話す相手は留学生なので日本語で話せるから、その点は安心だったが、文化の違いを痛感し、むしろ当方の方がたいへん勉強になった。

それは何かというと、お蕎麦や麺の食べ方や箸の使い方という具体的なことではなく、食事をするときの態度のことであった。

テーブル席に座っても、①足を組んでいる、②肘をついているから、指摘すると、「なぜいけないの?」と逆に質問されて困った。

「足を組まない」ことは、彼らにとって苦痛なことなのだろうか。「肘をついて食べる」のは、外国にあってもたぶん「ノー」だと思うけれど、もしかしたら、お蕎麦をサンドイッチのような軽食と思っているせいかもしれないなどと考えたりした。

そんなことがあったころ、鎌倉の蕎麦屋「栞庵」の恩田さん(江戸ソバリエ)から、「外国人のお客さまが多いから、英語版のお蕎麦の食べ方を作りませんか」というご提案をいただいた。

さっそく、大渡さん(江戸ソバリエ)という通訳をされている方に英訳してもらって、「How to Enjoy Soba」を作った。

そして、それが完成したころ、秩父にある名店「こいけ」を訪ねたことがあった。

店主は『お蕎麦のレッスン』にある「蕎麦の食べ方」について一言あるとおっしゃったので、うかがってみると、「これを初めに見たときは、当たり前のことばかり書いてあるじゃないかと思ったが、最近は若い人や外国人には必要だと思うようになった」とその価値を認めていただいた。要するに、このことを一所懸命にやれということだろう。そして「欧米では女性が帽子を被ってもマナー違反ではないかもしれないが、和食を食べるときは、帽子はいかがなものか」と付言された。

このときも、風土や文化の問題を感じた。何とか、この違いを理解し合えることはできないか!

そういえば、岡倉天心は文化の異なる外国の親友にも合点のいく書として『The Book of Tea』を著し、新渡戸稲造は外国人妻のメアリーに満足な答えを与えるために『Bushido,The Soul of Japan』を著したという。

としたら、外国人のためのSoba講座『The Book of Soba』があってもいいのではという考えをもつようになった。

そういうときに恩田さんと大渡さんのお蔭で「How to Enjoy Soba」を作成することができた。そして今は、第二弾、第三段を続けて企画してみたくなっているところである。

《参考》

・岡倉天心『茶の本』(岩波文庫)

・新渡戸稲造『武士道』(岩波文庫)

・「How to Enjoy Soba」
http://www.edosobalier-kyokai.jp/pdf/howtoenjoysoba0.pdf

 

〔文 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる