第381話 スロベニアの《SOBAパン》
「第7回江戸ソバリエ・ルシックセミナー」から
スロベニア共和国のSOBA博士イワン・クレフト先生をお招きし、「第7回江戸ソバリエ・ルシックセミナー」において「ヨーロッパのSOBA」の話をしてもらった。
「第6回江戸ソバリエ・ルシックセミナー」のテーマは、イタリアの《パスタ》だったから、ヨーロッパが続いたわけである。
京都大学の大西先生の現地調査によると、蕎麦の原産地は中国大陸の四川・雲南地区らしい。それが、
1)大陸を北進して、朝鮮半島、そし日本列島へ上陸、
2)トルキスタン・ルートを経て、ヨーロッパへ、
3)それからチベット・ヒマラヤへ、
と四散して広がったことを、これまでも折にふれてご紹介した。
クレフト先生も大西先生の説をふまえて、800年前に東欧に入って600年前ごろにヨーロツパ各地へ広まったと述べられた。
ヨーロッパのSOBA料理としては《カーシャ》《ポレンタ》《SOBAパスタ》《ガレット》そして、スロベニアではSOBA利用の半分が《SOBAパン》であるという。
そのスロベニアのSOBAパンを製造販売している店を氏原先生(信州大学)の奥さまからご紹介していただき、休憩時間に皆さんと試食した。
取り寄せたパンはSOBA粉50%と30%の二種とフルーツケーキ。
拝見すると、さすがに黒い!
中世のヨーロッパでパンが広まったころ、白いパンは貴族か領主級が、黒いパンは庶民の食べ物であったと聞く。とすれば、《SOBAパン》は庶民のパンだったのだろうか。
そして口にすると、少しボソボソ感がある!
イワン先生も「SOBA粉100%はパンにできない」とイワン先生も言われていたから、だいたい想像通りだったから、美味しく頂いた。
そういえば、「第6回セミナー」でお世話になったイタリア商工会議所の方が、「イギリスパンが日本海軍に採用されてから、日本人はイギリス流の《やわらかいパン》が好きなになったようだけれど、ほんとうのパンはイタリアやフランスのように《かたいパン》が美味しい。」とやや憤慨気味に言っていた。
たしかに《かたいパン》は噛めば噛むほど味がして美味しい。しかし、そうした歴史もあったかもしれないが、日本人がやわらかいパンを好むのは、基本的にしっとりしたモノを好むせいだと思う。
もう一つの《SOBA粉フルーツケーキ》の方は甘めで美味しい。
こうした《SOBAパン》や《かたいパン》などはジャムを付ければもっと美味しく感じるかもしれない。
パンというのは、粉+水=ドゥを、ほっとくと発酵して二酸化炭素が内包され、それを焼くとやわらかい大きなパンになる。ドゥを直ぐ焼けば無発酵の平パンになる。
発酵・無発酵は別として、われわれアジア人は、粉+水=ドゥを、麺にして、茹でる。だから、われわれは水分性の食べ物を好むのだろうか。
穀物を粉にして、火で〝焼く〟か、水で〝煮炊き〟するか、それが食文化の分岐点だ。それは、おそらく乾燥・草原地帯の民族と、湿地・照葉樹林の民族の相違という本能的なところまでいきつくであろう。そのことを知って、お互の文化を尊重する。
これがセミナーの目的「蕎麦は世界をつなぐ」である。
《参考》
・第7回江戸ソバリエ・ルシックセミナー(20186.10.6)
・ほしひかる「水の国から火の国へ」(2007年 Vol.2『蕎麦春秋』)
〔文:江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる〕
〔写真:江戸ソバリエ・ルシック 松本一夫〕