早稲田大学「体内時計の同調」新規メカニズム発見
執筆者:shirai
早稲田大学理工学術院の柴田重信(しばたしげのぶ)教授と池田裕子(いけだゆうこ)一貫性博士課程5年生らの研究グループは、体内時計の食事による同調において新規なメカニズムを発見した。同研究は、体内時計と食・栄養との関係を調べる「時間栄養学」、体内時計と薬の関係を調べる「時間薬理学」に関連する研究。体内時計とは視交叉上核という主時計と、末梢臓器にある末梢時計から成り立っており、睡眠時間、体温・血圧・成長ホルモンなどを調節しており、1日およそ25時間にリズムで機能している。そのため、視交叉上核の主時計は主に外界の光刺激で24時間周期に同調し、末梢時計は食事刺激で同調することが知られている。従来、食事性の同調メカニズムは、血糖上昇にともなうインスリンの分泌とその後の細胞内シグナルによることが知られていた。しかし、1型糖尿病モデルマウスでは、インスリン分泌は起こらないにも関わらず、食事性の同調が十分に観察されており、インスリンを介する同調以外のシグナル系が存在する可能性が強く示唆されていた。そこで、同研究グループは、正常なマウスに100%タンパク質の餌を与えるjッ件を行ったところ、炭水化物が豊富な餌に比較すると作用は弱めであるが、有意な十分な食事性同調が起こるという結果を得ることができた。また同調時に、インスリンレベルの上昇は確認されなかったが、血中や肝臓でIGF-1(IGF-1: insulin-like growth factor-1; インシュリン様成長因子-1)やグルカゴンの上昇が見られ、タンパク質が豊富な食事では、インスリンに代わって、IGF-1やグルカゴンが同調シグナルになっていることが分かった。また、1型糖尿病モデルマウスに高タンパク質食を与えることで、食事性同調が起こり、IGF-1が増大することも確認。これにより、ヒトの肥満防止や糖尿病治療の低炭水化物食がでも、インスリンに代わってIGF-1のシグナルで食事性同調を作りだすことが出来る可能性が提示された次にタンパク質の分解産物のアミノ酸に着目した研究を行ったところ、20種類のアミノ酸の中で、システインがIGF-1の上昇を伴いより強力な同調作用を引き起こすことを発見。将来的に低炭水化物食に添加するなど、糖尿病の新規な食事療法の選択肢になる可能性が示唆された。2017年のノーベル医学・生理学賞は、「体内時計」の分野に授与されるなど、体内時計の健康科学が発展し、時間栄養学の学問的な価値が益々高まっている中、同研究結果は、食事内容や食事療法が必要な糖尿病などにおいては、従来と異なった同調系シグナルが有効であるという、ヒトや医療に応用できる発見を成し遂げることとなった。同研究結果は2018年1月21日、Cell PressグループとLancetグループが共同運営するオープンアクセス誌『EBioMedicine』オンライン版にに同研究結果が掲載されたほか、2月号の表紙の候補にもなっており、本研究内容を解説したcommentaryも掲載された。■早稲田大学ウェブサイト:https://www.waseda.jp/top/news/57000 ■掲載論文:http://www.ebiomedicine.com/article/S2352-3964(18)30015-X/fulltext