第585話《金目鯛の深大寺蕎麦の香り焼き》
2019/07/16
~ 最近、美味しかったもの ~
深大寺蕎麦が六本木でデビューした。舞台はグランド・ハイアット東京の「けやき坂」、演出は江戸ソバリエの本多シェフ。
肉・魚・野菜など東京の食材を使ったランチ会を企画したいと前々から相談を頂いていたが、そのイベントが今日だった。なので、仲間の大竹先生(江戸東京野菜研究家・江戸ソバリエ講師)と中島浩雄さん(江戸ソバリエ)たちと馳せ参じた。
最初に、東京産食材の説明があって、それから「寺島茄子と一般の茄子」「後関晩生小松菜と一般の小松菜」の食べ比べがあった。
そして、この日に使う秋川牛は、本多シェフらが餌を与えに通っているという。餌にはブルーベリーやカカオまで入っていた。こうした愛情こもったステーキだから美味しいのも当然であろう。
そのステーキは二種。まずは《東京産けやき坂ビーフテンダーロインステーキ 明日葉ポテト しんとり菜 奥多摩山葵添え》と、続いて《東京産けやき坂ビーフサーロインステーキ 馬込半白胡瓜ピクルスと寺島茄子の煮浸し》が目の前で音と香りを立てながら焼かれる。
テンダーロインは驚くほど柔らかい。サーロインは牛肉らしい美味しさである。ステーキが二種もあるから気持まで満たしてくれる。
ところで、ステーキに山葵は付き物になったが、それもいい。だけど今日のような、しんとり菜などの緑の野菜の炒め物にも山葵はよく合うと思う。
さて、この日の献立の中で、私が気に入ったのは《金目鯛 深大寺蕎麦の香り焼き》だった。金目鯛と深大寺蕎麦、両雄の美味しさが並び立っているところが面白い。
献立名としては《金目鯛の深大寺蕎麦の香り焼き》という風にするのが一般的である。普通は主役になるだろう、金目鯛の美味しさを活かすために深大寺蕎麦の香り焼きをするからである。
しかし食べると、金目鯛の美味しさと深大寺蕎麦の香りが共に活きている。それでいながら深大寺蕎麦の香りは金目鯛も引き立てている。
そういえば、《東京産けやき坂ビーフサーロインステーキ 馬込半白胡瓜ピクルスと寺島茄子の煮浸し》もそのようなスタイルだった。サーロインも最高なのに、馬込半白胡瓜ピクルス単体も忘れられない味なのである。
だから両雄が並び立つ料理だというわけである。それは、さながらサラ・ブライトマンとアレッサンドロ・サフィナが歌う「Sarai Qui ♪」を思わせるような料理だった。
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サラ・ブライトマンとアレッサンドロ・サフィナは共に個性的な第一級の歌手なのに、二人が高らかに歌う姿は2乗の感動に満ちている。そんな料理だった。
〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる〕