第610話 ゆく年 くる年
「どうしてお正月があるの?」
11月の初めの1週間、中国へ行った。滞在中の食事は朝昼夜と中国料理だった。中国では普通のことである。帰国後の月末、今度は九州へ用事があって出かけた。ホテルの朝食は、和食コース、洋食コースのどちらかを選べることになっている。日本では一般的なことである。
それから一か月後のクリスマス・イヴの日、隣のお宅の玄関はきれいなイルミネーションが点滅し、びっくりするような大きなツリーが飾られていた。お子さんがいらっしゃるから楽しい夜をすごされているのだろう。
そして数日後、文京区内で親子蕎麦打ち教室を開くことがあった。上は80歳代から小さい2歳のお子さんまで、10組が集まった。
蕎麦打ち教室では、季節柄、合間に「年越蕎麦の話も・・・」ということになっていた。その中でお子さんから「どうしてお正月があるの?」ときかれたので、とっさに「1年のお誕生日なんです」と答えてあげた。分かってもらえたかどうかは判らない。
翌々日の仕事納めの日、管理人さんと相談して、管理人室に正月に相応しい花を飾った。そこでふと思いつき、うちのマンションの66所帯のうち何軒が正月用松飾りをしているだろうかとグルリと回ってみた。6軒だった・・・・・・。
ところで、江戸ソバリエ協会が加入している和食文化国民会議から、和食の保護・継承のために、正月行事およびその食についてのアンケートがきていた。
今の日本では、ゆく年くる年ごとに「和の文化」が消えつつあるとはよく言われることである。だから、趣旨を汲み取り、回答にも協力しなければならないだろう。
そう思いながら、私たち江戸ソバリエは年越蕎麦文化を継承していきたいと願うところである。年越蕎麦の伝統は、江戸・東京・首都圏では、蕎麦屋が多いせいか、出前の慣習が長く続いていた。一方の、地方の都市部では半生麺か乾麺を使い、地方でも田舎地区では自前で打っていたようである。もちろん首都圏は江戸蕎麦のつゆ。だけど地方のつゆは様々である。
どちらにしろ、年越蕎麦というのは家族揃ってみんなで頂くというのが、その真意であると思う。
〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる〕
写真:わが家恒例の鯛の南蛮漬、子年のお箸は石綿様からの頂き物