第776話 料理とお酒の関係

     

              ~ 蕎麦文学紀行 番外編 ~

  「お飲み物は何になさいますか?」
  外食店、とくに居酒屋チェーン店なんかに入ると、必ずこう言われる。
  作家の姫野カオルコさんがエッセイ『何が「いただく」ぢゃ』の中で、「借金の取り立てのように」、「オートメーション作業のように」、「いらっしゃいませより、こんにちはより、とにかくお飲み物は、と急き立てる」との不満をおもしろ、おかしく書いていたが、確かにそういうところがある。

  前に(775話)「合う」について述べたが、その「合う」ということもいろいろあって、お酒と料理は「いいお友達関係」だといえる。だから料理が決まってからお酒類(お友だち)が決まるのでは、と姫野さんは述べている。
  昔は、和食しかなかったから日本酒が永遠のお友だちだったけれど、現代は世界の料理やお酒が多彩であるから、お友達の組み合わせも複雑だ。だから食通作家の丸谷才一は「ビールと日本料理とは合うものだろうかと考えた」(775話)のである。
  なのに、急ぎ立てられるから、たいていの人は、毎日毎日視聴させられているCMに誘導されて、とりあえずビールと言ったら、ビールはすぐ来たのに、あとの料理がなかなか来ない、間がもたないのでついついビールの追加で腹イッパイ、と姫野さん。なにせビールのCMときたら有名タレントがうまそうに、一生ビールさえ飲んでいたら人生幸せいっぱいみたいな顔をして飲んでいるから・・・。
   あのCMと現実を観ていると、世の中はつくづくCMで動かされているように思えてくる。
  その点、蕎麦屋さんはスゴイ。《卵焼き》や《煮穴子》や《鴨焼き》など時間のかかる料理もあるが、《板わさ》とか、《焼き海苔》といったすぐ出てくるおつまみがちゃんとあることを忘れてはいけない。

  街には美味しい店がたくさんある。でも、こんな店に出会うと、かえって店の見方の勉強になる。
  少し前、お蕎麦はまあまあだったが、お箸が後回し、というか、なかなかお箸を持ってきてくれない蕎麦屋があった。二、三度行ったが、信じられないだろうが二、三度ともそうだった。しばらくしてその店は倒れた。

  余談ポイが、姫野カオルコさんには『蕎麦屋の恋』なんて小説があるし、別のエッ。セイでは《盛り》にクレソンも美味しいとおっしゃっている。
  クレソン1束ぐらいを食べやすい大きさに切って、オリーブオイル大匙1ほど熱し、芯を1秒炒めて火を止め、葉を0.5秒熱し、皿に移すのだそうだ。今度試してみようか

〔エッセイスト ほし☆ひかる〕