第395話 江戸ソバリエの名刺を渡そう

     

昼間、ぼうッとしながら、テレビを見るともなく見ていたら、サスペンス・ドラマを再放映していた。
ト、いきなり画面では交通事故。主婦が運転する小型車とゴルフ帰りのおエライサンが乗る乗用車がぶつかって崖から落下した。
ドラマではそのおエライサンがキーマンであったが、事故現場では全員が瀕死の重傷の様子。間もなく、救急車が来た。
警察も来て、身元確認をする。
免許証を持っている人、免許証はないけど名刺を持っている人。よくあるシーンだ。
その中の一人が財布の中に、本人の名刺と息子さんらしい名刺を入れていた。
警察はすぐ息子さんに連絡をとったため、輸血をすることができて助かった・・・。

ドラマを見ていた私は、「なるほど。名刺は手っ取り早い身元確認証だ。だったら、何かのときのために、一番身近な者に名刺を渡しておくべきだ」と痛感した。

私が親しくしている弁護士さんで、日本の近代の軍記ものを書き続けている人がいる。「何処でそんな情報を得ているの?」と訊いたくらい、専門的情報が詳細である。その方は「情報は何処にでも落ちている」と言うのが口癖だが、そういわれればそうだろう。
そんなわけで、耳目に入った災害や事故を参考にしながら得たことを江戸ソバリエ認定講座のテキストに記したり、オリエンテーションで話したりすることにしている。
たとえば、
・蕎麦打ちは、1)衛生管理、2)怪我に注意、3)火の用心。
・約束時間より早く到着して、辺りに関心をもとう。
・旅行のスケジュールは、留守の人にも渡しておいた方がいい。
などなと・・・。
これら戒めみたいな事柄にたどり着いた経緯も、一つひとつ述べてみればそれはそれでエッセイになるが、関係者に迷惑がかかるかもしれないし、かつリスク管理っぽいところが感じられるのか、「お硬いことを言うな」とおっしゃる人がいるので、割愛する。
ただ一つ、江戸ソバリエ・ラダック探検隊の小林団長は後援者に、1)スケジュール表とメンバー表を渡すことと、2)出発前の「行ってきます」と帰国後の「ただいま」だけは欠かさない。
つくづく責任あるリーダーだと安心しているので、付言しておきたい。

それはさておき、この度も「名刺を渡そう」なんて、背景からみれば戒めっポイことをまた書いてしまった。
しかし、冒頭のテレビ云々は取って付けたように偶々再映されていたことであって、実のことを申上げると、ちょっとした事件が起きたばかりで、「身近な人と名刺を交換しておこう」とは、そのとき一緒にいた人たちと話したことだった。

ただ、こうして書いてみると、やはり「お硬い」と渋い顔をされそうだ。
そういう方のためには、こんな風に発想を換えれば、苦言にはならないのかもし
れない。
(「情報は何処にでも落ちている」と) 同じような意味で、「チャンスは毎日、訪れる」と云った、11歳の少年哲学者として人気の中島芭旺君の言葉から思いついたことだ、と。

〔文・写真 ☆ エッセイスト ほしひかる