第452話 田舎料理《Pizzocheri》

     

☆《Pizzocheri 》を作ろう
ニンニクとバターの匂いが漂っている。
ここは《Pizzocheri》のワークショップの会場。
初めに、シェフのクリスティアーノ・ポッツィさんが「Pizzocheriというのは、伊・ロンバルディア州ソンドリオに伝わる田舎料理の《蕎麦パスタ》です」と紹介した。
以前、パスタのセミナーを開催したときにお世話になった在日イタリア商工会議所から今宵の企画へのお誘いがあったので、「蕎麦なら」ということで参加した。
ところが、ドアを開けたとたんに、「あら!ほしさん♪」と声をかけられた。お顔を見ると、ソバリエのIさんである。「さすがですネ」と言われたが、私も同じ言葉を発したいぐらいだ。こうした会には必ずと言っていいほどソバリエさんがいらっしゃるから、スゴイことだ。

さて、前おきはこのくらいにして、Pizzocheriを作ろう♪
①食材は用意してあるから、
②蕎麦パスタを作る。
蕎麦粉(Farina di Grano Saraceno 400g)+薄力小麦粉(Farina Bianca o 100g)+水(Aqua 240ml)
これを見てIさんは「やはり二八なんでね。東西の黄金比率なんでしょうかね」と云った。成程。加水率も48%だ。
ただし、粉は少し粗いようだ。それに篩も使わない。
捏ねて、延したら、庖丁で切る。
厚さ0.3cm×幅1cm×長さ7cm
切ったそれはまるで甲州名物《ほうとう》のよう。

③鍋に水と塩を入れて沸かしたら、切ったジャガイモを入れ、次に蕎麦パスタとキャベツを入れる。イタリアではVeza(縮緬キャベツ)を使うという。
塩(salt 60g)+ジャガイモ(Patato 240g)+蕎麦パスタ+キャベツ(Veza o Cosate 200g)

④別のプライパンでバターと潰したニンニクを狐色になるまで炒める。
バター(Butter 80g)+ニンニク(Aglio 2p)

⑤最後に③+④に、チーズを入れる。
チーズ(Formggio Casera 180g・Pamigiano Regiano 50g)
第445話「出流 白そば」で述べたように、内モンゴルでは蕎麦にヨーグルトをかけるというから、蕎麦のチーズだってありだ。

⑥食べるときは、お好みでpepe nero(黒コショウ)をかける。
さっそく頂くと温かくて美味しい。今夜はやや寒いから丁度いい。その心は、イタリア版のチーズ入りバター味の《ほうとう》か《けんちんそば》みたいな【おらがパスタ】である。

☆和食文化戦略
というわけで、《Pizzocheri》というのは田舎料理だ。
だから、イタリア旅行をしたソバリエさんも食べたいと思ったけれど、何処へ行けばいいのか分からなかった」というのが現状だ。
それなのに、東京で《Pizzocheri》の講習会をやれば、20人も集まってくる。
では、ロ-マで《ほうとう》や《けんちんそば》の講習会をやったら、人は集まるだろうか?
来ないだろう! 何かが足りないからだ。
ちなみに、今日のワークショップには、男性は私と輸出入業が仕事だという方と2人だけ、あとは女性ばかり。その女性たちに「どうして参加したの?」と尋ねてみると、「イタリア料理が好きだから」とおっしゃる。
「蕎麦に興味があるから」というのは、おそらくIさんと私ぐらいだろう。
そのくらいイタリア料理は周知されていて人気だ。
理由は、何だろう?
たぶん、イタリアの食文化情報が伝わり、ファンが増えたからだ。
かつてのフランス料理の【高級】な雰囲気をもつ食文化に、対してイタリアは地産地消】という食文化思想が効いているのだと思う。

ということは、蕎麦や、和食を世界に通用させるためには、まず【和食文化】を理解してもらう戦略が必要だということだ。
その一助として、江戸ソバリエ協会サイトの『ほしエッセイ編』に 「和食とは何か」を述べているが、一言でいえば、和食というのは武士時代に完成した食事である。それ以前の奈良・平安と、明治以降の近来の料理とは違うものである。
サムライの時代に完成した旨味(出汁)が中心とした料理形式は、今も〝和〟の思想の要になっている
したがって、蕎麦や和食の前に、世界に通じる〝和〟の思想を提示することが肝要であると思う。

〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる