第452話 田舎料理《Pizzocheri》

      2021/12/05  

☆《Pizzocheri 》を作ろう
ニンニクとバターの匂いが漂っている。
ここは《Pizzocheri》のワークショップの会場。
初めに、シェフのクリスティアーノ・ポッツィさんが「Pizzocheriというのは、伊・ロンバルディア州ソンドリオに伝わる田舎料理の《蕎麦パスタ》です」と紹介した。
以前、江戸ソバリエ協会でパスタのセミナーを開催したときにお世話になった在日イタリア商工会議所から今宵の企画へのお誘いがあったので、「蕎麦なら」ということで参加した。
ところが、ドアを開けたとたんに、「あら!ほしさん♪」と声をかけられた。お顔を見ると、ソバリエの伊佐邦子さんである。「さすがですネ」と言われたが、私も同じ言葉を発したいぐらいだ。こうした会には必ずと言っていいほどソバリエさんがいらっしゃるから、スゴイことだ。

さて、前おきはこのくらいにして、Pizzocheriを作ろう♪
①食材は用意してあるから、
②蕎麦パスタを作る。
蕎麦粉(Farina di Grano Saraceno 400g)+薄力小麦粉(Farina Bianca o 100g)+水(Aqua 240ml)
これを見てIさんは「やはり二八なんでね。東西の黄金比率なんでしょうかね」と云った。成程。加水率も48%だ。
ただし、粉は少し粗いようだ。それに篩も使わない。
捏ねて、延したら、庖丁で切る。
厚さ0.3cm×幅1cm×長さ7cm
切ったそれはまるで甲州名物《ほうとう》のよう。

③鍋に水と塩を入れて沸かしたら、切ったジャガイモを入れ、次に蕎麦パスタとキャベツを入れる。イタリアではVeza(縮緬キャベツ)を使うという。
塩(salt 60g)+ジャガイモ(Patato 240g)+蕎麦パスタ+キャベツ(Veza o Cosate 200g)

④別のプライパンでバターと潰したニンニクを狐色になるまで炒める。
バター(Butter 80g)+ニンニク(Aglio 2p)

⑤最後に③+④に、チーズを入れる。
チーズ(Formggio Casera 180g・Pamigiano Regiano 50g)
第445話「出流 白そば」で述べたように、内モンゴルでは蕎麦にヨーグルトをかけるというから、蕎麦のチーズだってありだ。

⑥食べるときは、お好みでpepe nero(黒コショウ)をかける。
さっそく頂くと温かくて美味しい。今夜はやや寒いから丁度いい。その心は、イタリア版のチーズ入りバター味の《ほうとう》か《けんちんそば》みたいな【おらがパスタ】である。

☆和食文化戦略
というわけで、《Pizzocheri》というのは田舎料理だ。
だから、イタリア旅行をしたソバリエさんも食べたいと思ったけれど、何処へ行けばいいのか分からなかった」というのが現状だ。
それなのに、東京で《Pizzocheri》の講習会をやれば、20人も集まってくる。
では、ロ-マで《ほうとう》や《けんちんそば》の講習会をやったら、人は集まるだろうか?
来ないだろう! 何かが足りないからだ。
ちなみに、今日のワークショップには、男性は私と輸出入業が仕事だという方と2人だけ、あとは女性ばかり。その女性たちに「どうして参加したの?」と尋ねてみると、「イタリア料理が好きだから」とおっしゃる。
「蕎麦に興味があるから」というのは、おそらく伊佐さんと私ぐらいだろう。
そのくらいイタリア料理は周知されていて人気だ。
理由は、何だろう?
たぶん、イタリアの食文化情報が伝わり、ファンが増えたからだ。
かつてのフランス料理の【高級】な雰囲気をもつ食文化に、対してイタリアは地産地消】という食文化思想が効いているのだと思う。

 日本は、高級フランス料理が全盛になれば、一斉に高級を目指し、イタリア流の郷土食が流行れば、一斉に郷土食に力をいれる。
それだけでは、和食は世界に通用させるのは難しい。和食独自の〝和〟や〝旨味〟をもっと世界に提示する戦略が肝腎であると思う。

〔文・写真 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる