ドイツ食品小売協会「食品貿易の動向と展望」リポート

      執筆者:編集部

(社)ドイツ食品小売協会専務理事ミヒヤエル・ゲーリング氏

 アジア、中南米、アフリカでは、昨年から経済成長傾向が続いていますが、その一方で、米国と欧州では、経済状況は落ち着きをみせており、特に欧州では光明が見え始めています。欧州中央銀行では現在、ユーロ圏の経済がかねての予想以上に早く回復すると見込み、今年を緩やかな成長が始まる時期と予測しています。欧州連合の消費者もまた、楽観を取り戻しています。市場調査機関GfKの2012年第4四半期欧州消費者信頼感レポートによると、経済概況は評価対象国の大半で安定しています。同四半期には、欧州の人々の所得期待も高まりました。全休としては、欧州では日用消費財の売上高が前向きに動いていると断言することができます。GfXによると、2012年の日用消費財売上高が前年比で減少したのはギリシヤのみです。イタリアとオランダでは成長は控えめでしたが、残りのEU加盟国の成長は、まずまずと言える以上に好調でした。こうした進展は、日用消費財貿易が比較的危機に強いことを示しています一結局の所、人々には飲食が欠かせません。特に、今後、数年間、食品貿易の高い伸びが世界中で見込まれています。これは主に、世界人口が増加し続けていることによるものです。英国食品流通関連調査機関IGD(Instute of Grocery Distrbution)によると、中国の食品貿易の売上高は2011年~2015年の間に7000億ユーロから1兆ユーロ以上に増加するということです。ブラジル、インド、ロシアの合算売上高は、同期間に7500億ユーロから1兆1000億余ユーロに増加すると予想されています。インドネシアと米国でも"とりわけ堅調な成長が見込まれているほか、日本、フランス、ドイツ、英国、イタリアなどの国でも増加が予想されています。ただし、成長率は1桁に過ぎず、平均して年間2%未満です。現在、消費財の国際貿易はアジアが優位を占めており、アジアの市場シェアは約34%です。北米の市場シェアは約25%  続いて西欧が18%、中南米と東欧がそれぞれ8%となっています。アフリカとオセアニアは、共に約5%の市場シェアを確保しています。アジア、中南米は、アフリカと同様に経済成長率が特に高い地域です。しかし、その一方で、食品貿易国における世界大手企業リストは米国、欧州に独占されており、日本もその一部を占めています。ウォルマート(Wal-Martt)、力ルフール (Carrefur)、テスコ (Tesco)、クローガー (Kroger)、シュヴァルツ (Schwarz)、アルディ (Aldi)、ウォルグリーン (Wagreens)、イーオン (Aeon)、セブンイレブン(Seven Eleven)、コストコ(Costco)、CVS、アホールド(Ahold) は、ずっと以前に時代の動向を認め自国国内市場の枠をはるかに超えた事業活動をすでに展開しています。食品貿易セクターの大企業は、長い間国際舞台で活躍しています。2年ごとに国際食品セクターの名士が一堂に会することから、アヌーガがそうした企業にとって最良の場であるのは当然のことです。世界中のすべての市場は、人々に高品質の食糧供給を行うという同一の課題に直面しています。もちろん、この課題に対応するためには、地域経済の成長度合いに応じてさまざまな取り組みが必要です。急成長中の市場では、農産業、加工産業のみならず、輸送、ロジスティックス、小売食品貿易の各セクターも、機能的なシステムを整えることに重点が置かれています。急増する需要を適切に満たすためには、このことが不可欠です。農業生産力の向上、効率の良い加工方法、機能的なコールドチェーンは、各国が直面する課題のほんの一部に過ぎません。成長がほとんどみられない国では、全く別の取り組みが必要です。ここでさらに焦点になるのが商品の品揃えの変化ですが、これは、簡単に調理できる食品や調理に手間のかからない食品の人気が高まっていることを反映しています。もう一つの目標は、特に健康食品や持続可能な方法で生産された食品への高まる需要に対応することです。これは、「クオリティイーター (食品の品質にこだわる人)」と称される消費者群が増え続けることを意味しており、ネスレニュートリション(Nestle Nutrition) の最新の研究によると、ドイツでは4人に1人がすでに 「クオリティイーダー」です。彼らは食品の品質に関して特に高い水準を持ち合わせているため、こうした消費者にとっては、食品の風味、安全性、衛生、持続可能性はずべて等しく極めて重要なものなのです。この4つの品質バラメーターのために尽力するサプライヤーは、富裕な市場で成功を遂げる絶好のチャンスを手にしています。昨今、食品産業は段階をまたいだ独自の管理システムを利用して、製品安全性と加工チェーンの完全性を確保しています。そうした国際システムの2つの代表例が、IFS(国際食品規格International Food Standard)とグローバルGAP(GlobaGAP)です。現在、食品貿易セクターでは、これらのシステムを用いて、肥料や農薬の散布、天然資源利用、農場労働者の社会的状況、食品加工の品質を監視しています。多くの貿易企業にとって、これらの基準に従った認証は、商品購買に欠かせない要件です。オーガニック食品やフェアトレード商品に対する需要の伸びは、消費者が、購入する食品の健康や持続可能性という各側面にますます高い価値を置いているという事実を反映しています。欧州と米国におけるオーガニック製品の1人当たりの売上高は、ここ数年、絶えず上昇しています。スイス、デンマーク、ルクセンブルグ、オーストリアなどの国のオーガニック製品売上高は、年間1人当たり130から180ユーロです。22012年、ドイツのオーガニック製品売上高が、初めて70億ドルを超えました。前年比6%の増加です。オーガニック製品の世界年間売上高は約450億ドルです。フェアトレード製品の大幅な売上増加も衰えることなく続いています。2011年のドイツのフェアトレード製品売上高は4億ユーロで、これは前年比18%増です。世界的に見て2011年の消費者のフェアトレード製品購入額は約50億ユーロ相当でした。2012年にはこれら製品の年間売上高は約6億ユーロ増え、前年比12%増加しています。持続可能な食品産業の推進を目的としているその他のシステムMSC(MarineStewardship Council:海洋管理協議会)、レインフオレスト・アライアンス (Rainforest Allance) などもまた高い伸びを示しています。2012年6月にドイツで設立された「サステナブル・ココア・フオーラム (Sustainable Cocoa Forum) 」もフェアトレードという目標に取り組む組織のもう一つの例です。BVLが共同設立したこのフオーラムでは、食品貿易セクターの企業が協力して活動しています。このフオーラムの目的は、食品貿易において高まる需要を満たすべく、ココア農家
の生活状況を改善し、持続的に生産されたココアの市場シェアを増やすことです。BVLは「アヌーガ2013」 のケルンメッセ・ブルバード(Koelnmesse Boulevard)中央セクション「リテール・フオーラム (RetaU Forum) 」工リアで、BVL の「サステナブル・ココア・フオーラム」への関与について詳しくご紹介する予定です。この場所では、見本市へのご来場者も、このイニシアティブに関する情報イベントにご参加いただけます。

ほぼすべての高度先進国は、急速に進んでいる人口変動という問題に取り組まねばなりません。全体的な人口は減少しており、世帯の小規模化は続いていますが、医学の進歩のおかげで消費者の寿命は延びています。例えば、ドイツの全人口のうち30%以上が2050年には60歳を超えます。その一方で、現在、ドイツでは8000万人以上の人々が暮らしており、2050年には人口が7000万人を超えます。その時までに、単身世帯の割合は40%に達しているでしょう。 つまり、ほぼ2世帯につき1世帯を1人暮らしが占めることになります。この新しい要件を満たす製品の開発・マーケティングから、新しい商機が生まれています。例としては、高齢者向けべストエイジング製品やアンチエイジング製品のような健康製品やウェルネス製品、機能性食品などです。また、多数の小世帯のために適度なサイズのパッケージや手早く簡単な調理に適している製品を用意することも必要になるでしょう。

多くのEU加盟国では、ここ数年の間、手早く簡単に調理できる製品の割合が堅調に増加してきました。ここ数年間、すでに大きな需要があったのと同様に、便利製品 (特に新鮮なうちに冷凍した食品)の好調な売れ行きは今後も続くと考えられます。出来たてパスタ料理などの一部の製品分野では2桁成長率が見込まれます。社会的発展もまた、多くの国で、肥満者数の増加の原因となっています。ドイツでは、全男性の約60%、全女性の40%が肥満に分類されます。食品アレルギーも増えています。こうした展開から、欧州議会、多くのEU加盟国、国際機関が健康・ライフスタイル・栄養という問題に集中的に対処しています。この状況の中、近年は食品の栄養標示に対する需要が大きく増えており、貿易会社は、グルテンフリー製品やラクトースフリー製品などの新しい品目を自社の品揃えに加えています。食品貿易企業が幼稚園や学校と連携することも増えています。低年齢の小児に健康的な食事の必要について知識を提供するためです。貿易企業のハウスブランドは、競争の厳しい欧州の食品市場で、会社の収益を増やすためにも、商品範囲を際立たせるためにも重要な手段です。例えばスイス、スペインや英国では、企業のホームブランドがすでに自国における総売上高の約50%を占めています。さらに、ハウスブランドはもはや、有名ブランドに変わる単なる安物ではなくなっています。ハウスブランドが高級セグメントで販売されることが増えており、商品の拡大が大いに行われています。ドイツでは、売上高に占めるハウスブランドの割合が、40%と堅調だった2005年から、現在では45%超に増えています。ドイツ小売食品貿易におけるハウスブランドすべてのうち、約25%は高級セグメントで販売されています。ハウスブランドが低品質低価格商品向けに過ぎなかった時代は、ほぼまちがいなく終わっています。今日、食品業界では、すでに商品範囲の品質のけん引役となっているハウスブランドも存在します。この進展は、特に第2、第3のブランドへの圧迫が強まっていることを意味し、これらのブランドは2005年以降、すでに市場シェアの約5%を失っています。小売食品セクターが直面しているもう一つの課題は、インターネット経由での購買数が増加していることへの対応法です。もちろん、同セクターはインターネットショッピングという領域に着手したばかりですが、スイスや英国の一部企業ではすでに、家庭食配達サービス事業で成功を収めています。ドイツでは、インターネット食品貿易の市場シェアはまだ1%未満です。とはいえ、ネットで注文して店舗で注文品をピックアツ プする「クリック&コレクト」などのような新しいコンセプトを試験的に行っており、配達というコンセプトの開発に多額の投資が行われています。

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