食の器(2) 比叡山のキッチンハウス 1/15
執筆者:編集部2
30年来の友人にJYさんという人がいます。
彼女は20代の初め渡米し、すっかり世界の視野を体感。そのまま長年滞在、キルトの世界に入り込み、世界一流のキルト作家になった人です。
彼女は単なるキルトワークにはとどまらず、キルトの素材である糸を染め、布に織り、キルトの基布を自らの手で探求し、つくり続けました。
そのため、自然素材や創作環境を求め、インドネシアのバリ島工房を設け、20年間努力。その結果誰もが夢にもつ「青竹の白」を開発したのです。
この白の布をベースに世界の一流美術館におさまるほどの作品を数々つくってきました。
その人が今回はなんと食の世界でもチャレンジしようとふるさとの京都にキッチンハウスを創設しました。
場所は比叡山の山裾で周囲は自然の樹木、山草でおおい茂った雰囲気のある場です。10年間の構想を建築デザイナー、職人さんたちに説明しても彼女の提言はどれも業界の常識をこえる難問で、完成まで2年もかかったそうです。
基本構造は自然素材、木、土、石、竹を使い、自然の光、風が通り、外と内との区別のない空間をつくることで、すき間はある、風はいききする、光は自由にとりいれる、建築上難問だらけでも彼女の熱意と職人さんの努力で完成しました。
来客の人においしく食べていただくためでなく、空気、風、光、素材の手触り感覚など五感をフルにだし、おもいをめぐらし、来客の1人1人が自由に何か小さなことでも心がゆれることをつくってあげたいとの想いです。
建物の内部は不便で、手がかかる構造なので、逆に人はそのために本来のものをめざめることになる。「冬が寒いのは当然で、待っていれば春がやってきます」という心情。
風化した大谷石を1つ1つ手で洗い、キッチン台の基礎に、30年のツツジの大木を柱に、バリの工房の石灰で汚れたテーブルが食台に、部分部分に驚きのつくりがほどこされ、物語をつくっています。
来客の食への興味を想い、それを演出し、料理をつくり、語りあうゲストスタジオ。
今、長年の夢、究極の和風チーズケーキに挑戦しています。
やがて「青竹の白」の発見と同じような驚きのケーキが誕生するのでしょう。いつかここの本格的な茶室で和の器にあうカトラリーを使い、この幻のチーズケーキをいただきたいと想っています。