第181話 白くて艶やかでプルンとして

     

 

 尾崎一雄の小説『かまぼこ娘』に「(かまぼこは)白くってぷくっとしている」という台詞が出てくる。小田原出身である尾崎だから書きたかったのだろうか、たしかにかまぼこはそうだ。白くて艶やかでプルンとした歯ざわり、なのにやや粘りもあるような食感、そしてちょっぴり甘味をふくんだ不思議な美味しさをもっている。その美味しさの秘密を教えていただくために小田原鈴廣さんをお訪ねした。

 鈴廣さんは箱根登山鉄道の風祭駅と直結していた。一帯すべてがかまぼこの里である。今日お話を聞かせていただくことになっているOさんは、ロハスの街として知られるアメリカ・ポートランドへ街づくりの勉強へ行かれたことがあるというが、この風景を観れば、会社が目指している方向も何となく理解できる。

 箱根登山鉄道☆ほしひかる

 さて、― かまぼこ1本(250-260g)作るのに、魚(約250g)5~6匹を使用、小田原では主としてシログチと呼ばれる白身魚を使うという。その白身の部分だけを採る。血合い肉が入ると白く仕上がらないらしい。それを「箱根百年水」という地下水で晒して血液や酵素や脂肪を洗い流し、魚肉の蛋白質を精製する。これによって蒸したときにプリンとした弾力が生まれ、かまぼこが一層白くつややかになるという。次にきれいになった身を石臼で擂り潰し、塩だけて練り、徐々に砂糖、味醂、卵白を加えて糊状に仕上げていく。板付け工程では素早く、三回に分けて付けるが、気泡が入らないようにする。これらコツがまた弾力を生むらしい。そして最後に包むように優しく蒸す。1℃、1分の差で弾力に違いが出るそうだ ― 。

 伺ってみると、製造の各工程での丁寧な作業がかまぼこの特色を出していることが分かった。

 こうして作ったかまぼこを10℃に冷やして厚さ12mmに切って、山葵でたべるのが一番美味しいという。それがお蕎麦屋さんでは定番となっている「板わさ」、そして和風料理には欠かせないかまぼこである。

  せっかく来たのだから、と「かまぼこ博物館」にも寄ってみた。1階は体験教室や情報舘、2階に上がるとかまぼこ板絵ギャラリーがある。かまぼこといえば板付、でも食べたあとの板も立派すぎて、捨てるのはもったいない。というわけで、それに絵を描くことを思いついたのだろう。

 ギャラリーには子供から大人まで、そしてプロの画家や漫画家がかまぼこ板に描いた絵がずらり。童話のような絵から物語り風まで、小さな板に夢がいっぱい詰まっていて、見ていて楽しくなる。

 帰ったら、板わさで一杯、締めにお蕎麦。そして、そのかまぼこ板に絵でも描いてみようか・・・・・・。

 

参考:小田原鈴廣さんのお話、尾崎一雄「かまぼこ娘」(池田書店『親馬鹿の記』)、江戸ソバリエ協会編『新・神奈川のうまい蕎麦64選』(幹書房)

電車シリーズ:【箱根登山鉄道】(「蕎麦談議」第181話)、【都電】(174、123、話)、ブルートレイン】(165話)、嵯峨野トロッコ列車】【嵐電】(160話)、【比叡山ケーブル】(146話)、【サンフランシスコのケーブルカー】【ナパのワイントレイン】( 江戸ソバリエ協会サイト – 国境なき江戸ソバリエたち「明日に架ける橋」) 

〔エッセイスト、江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる〕