食の今昔物語 1月編 七草粥、食べますか?

     

 一月・・・七草粥を食べましたか?

 新聞の家庭欄やテレビのワイドショウでは、「年末年始に美味しいものを食べ過ぎ、お酒も飲み過ぎたので胃腸をいたわるために七草粥を食べましょう」といっています。

 では質問です。

 「おせち料理もお酒もいただきましたが、神に誓って暴飲暴食はしていません」という方は七草粥を食べなくても良いのでしょうか。

 答えは「ノー」です。

 七草粥を食べる時期は、一年を通して最も寒さが厳しくなる時期です。この寒い時期に昔の日本人が、自分も倒れてしまうかもしれない、と恐れたのが致死率の高かった脳卒中でした。

 脳卒中予防と七草粥に何か関連がないのかを調べてみました。

 おせち料理は「ハレの日」(晴れの日と書きます)の食べ物といい、神様とともに食べる料理です。また「ハレの日」は、日常では滅多に口にすることができない魚や小動物といった動物性タンパク質を食べることが適う日でもありました。鯛、エビ、タコ、田作り、数の子、鶏肉の入った煮しめなどの料理はその代表格です。またおせち料理は保存食でもありますので、塩分使用量も普段口にするものよりは多かったはずです。

 動物性タンパク質を摂り体力をつけ、免疫力を整えると、風邪などを予防できるということを祖先は知っていた、と考えて間違いないでしょう。

 また普段の日(「ケの日」といい漢字では「褻の日」と書きます)より多く摂った動物性食材の保存手段として使われた塩には、ナトリウムが含まれています。このナトリウムを含んだ塩分使用量の多い食べ物の、体に及ぼす影響についてはもちろん先人たちも知る由もなかったに違いありません。

 一方では動物性食材を使った食べ物などには、寒い時期の健康管理にとってはマイナスとなる成分も多い、ということを先祖代々綿々と積み重ねた体験を通して知っていたのではないでしょうか。

 今でこそ多くの人々が塩に含まれているナトリウムの過剰摂取は、血圧を上げ、脳卒中などを引き起こすことを理解しています。対策には、体に溜まったナトリウムを体外に排出するカリウムの多い食べ物を摂ることと今日では広く知られるようになっています。

 セリやナズナ、スズナといった春の七草は、他の野菜に比べて抜群にカリウム含有の多い野菜です。また七草粥を食べる一月七日は、風邪を引きやすい時期でもあります。セリ、ナズナ、スズナ、スズシロにはビタミンCが多く、これらの野菜を摂り、風邪の予防を期待していたのでしょう。ゴギョウには痰切りや気管支炎の予防効果が、スズナには咳止め効果があります。おせち料理を食べ続けた後、七草粥を食べ、一年の無病息災を神様に願っていたのかも知れません。

 祖先たちは体験的に春の七草の効用を知っていたのです。先人が培った経験を長く言い伝え、それから学んだことを食習慣として代々にわたり残していったのです。飽食時代ということを不思議とも考えなくなった今、また四季を問わずどんなものでも食べることのできる今こそ、季節とともに生き、暖かい春を待ち望んでいた先人の知恵を生かしたいものです。

 是非、子や孫といった次世代に引き継ぎたいものです。 

 「年末年始にご馳走を食べ過ぎ、お酒を飲み過ぎたので胃腸をいたわるために七草粥を食べる」という現代的な解釈だけではなく、健康管理の面からも教訓としたいものです。 

 補足 元旦から数えて七日目を「人の日」として占いをたてたという中国の習慣を「人(じん)日(じつ)の節句」と言います。この一月七日が、人を大切にする節句として我国に伝わってきました。疲れた胃腸云々という説は比較的新しい時代の人が後付したものと考えられます。