健康ニュース 4月15日号 腹八分の現代風解釈

     

高齢者を対象とした先生方の講演を聴き、時々戸惑うことがあります。

Aという先生は「高齢者の食事についても腹八分が健康のために必要」と言いますが、Bという先生は「高齢者はそうでなくとも食事量が減り、その結果摂取栄養素で不足するものが出る。腹八分なんてとんでもない。十分食べたうえでおやつなど間食も必要であります」と180度異なることを言われることに気づきました。

皆さんはどちらの説を支持し実行しようと考えますか。

江戸時代の医学者、貝原益軒は著書「養生訓」で次のように書いてあります。「満腹は避けなさい。腹いっぱい食べると苦しく禍のもとになる。少しの我慢で後の憂いは生じない。(中略)特に飲食は満腹することを避けなければならない」(講談社学術文庫養生訓伊藤友信現代語訳より引用)

これはあくまでも平均寿命が40歳代にも程遠い江戸時代の書に書いてあるということです。寿命が倍近く伸びた現代の高齢者に当てはまるのでしょうか。高齢者の健康を研究している専門家が、腹八分を否定しています。

「高齢者の栄養失調が急増中」というニュースを耳にされたことはありませんか。

主に肉の摂取不足が原因となる低アルブミン値、脂肪成分不足との結びつきが原因の低コレステロール値、さらに鉄分不足。この三つが基準値を下回ることを三低といって、栄養失調と診断されます。

この現代版栄養失調は、若い世代の女性と高齢者に多く見られる現象であると言われています。

江戸時代の貝原益軒先生もまさか平均寿命が80歳を超える時代が来るとは思ってもいなかったことでしょう。今の時代におられるとしたら、高齢者は腹八分という考えを捨てなさいと言われるのではないでしょうか。

「腹八分」を調べているうちに、語源としては様々な説のあることが分かりました。

そのうちの一つが、「食べ物が十分確保できなかった時代が長く続いた。その結果一日二食の時代が長く続いたし、その日の最後の食事の後は早々と寝るだけであった時代だからこそ、腹八分という説が出来上がった。貴重な食料を腹いっぱい食べることはそれだけ早く食糧危機がやってくるという危機管理の一面もあったのです」というものです。そんな時代も権力者などは十分な食料を確保できたので腹八分は関係なかったということです。

また現代医学で生活習慣病の研究者は「腹八分はメタボ予防の食事のあり方で、メタボの心配のなくなった高齢者は腹八分を守る必要はない」とまで言い切っております。

こういうことを考えると何となく「腹八分が健康のもと」という言い伝えが都市伝説のように思えてきて仕方がありません。そうではなく、高齢者の域に達するまでは肥満を避けるため、生活習慣病予防のために腹八分を心掛けるべきでしょう。

貝原益軒は、別の著書「大和本草」では納豆のような腐ったものを食べてはいけない。食べると内臓も腐ってしまう、と書いてあります。江戸時代という古の説、「腹八分が健康のもと」をあなたはどう解釈しますか。