第449話 未来いそっぷ「村営 植物工場」!

     

~ 「次世代農業EXPO」にて ~

☆植物工場
私の若いころ、星新一(1926~97)のショート・ショートという短編がよく読まれていた。作家の性格もあってか、素直な文体で未来のことを描かれていたから、ファンは多かった。
ところが今日、「食品サポート連合」の皆さんと、幕張で開催されている「第4回次世代農業EXPO」に来て、「植物工場」を見たとき、これは星新一が描く未来ではないかと思った。
「第4回」とあったが、東京・大阪で年2回の開催だから、開始は昨年からということで、まだ新しい分野だ。それでも300社ほどが今回の「EXPO」に参加していた。

「植物工場」・・・!
言ってしまえば、田畑という土のある所ではなく、建物内の土のない所で、植物を栽培することだろうが、中身まではよく知らなかった。
それが今日、入門編的なことだけは少し分かった。
先ずは、「建物の中で」ということなので、植物が育つのに必要な、光、水、酸素、肥料、CO2、温度、湿度、風を制御して建物内に供するということらしい。
その環境の制御の仕方によって、人工光型と太陽光型植物工場に分けられるが、いずれも生産は一年中連続して可能だという。
ただ、ここで育てられる植物は、現段階では葉物野菜類、小型根菜類、果菜類、ハーブ類、花類などの「機能性植物(ビタミン・繊維質)」に限られている。
対して、米、小麦、ジャガイモ、トウモロコシなどの「カロリー性植物」(澱粉、蛋白質、脂肪)はまだまだらしい。当然、蕎麦栽培もまだだろうが、いずれこうした植物も可能となる日がくるだろう。

人類の栽培史を振り返ると、小麦は1万年前のメソポタミア辺りで始まった。最初は二条大麦の野生種から栽培種が生まれ、それから六条大麦や裸麦に進化したとみられている。
稲は、ジャポニカとインディカの2種があるが、ジャポニカは7000~8000年前の中国・長江の中下流域で始まった。インディカは4000~5000年前のインドのドラビダ人が始めた。
そして、蕎麦の栽培は5000年前の、中国の四川・雲南で始まった。
換言すれば、1万年前のご先祖は、採取生活の【類人猿の世紀】と決別して、【人間の世紀】を切り拓いたのであった。そのときは、対象物の農作物を人間の手で何とかしようとした。これが植物の栽培化であった。
しかしである。1万年後の現代では、光、水、酸素、肥料、CO2、温度、湿度、風などの環境を人間の手で制御しようというのである。
われわれは人間から何になるのだろうか? これからは【人間の世紀】から【新人間の世紀】へと転じようというのだろうか?
星新一が描く「未来いそっぷ」の世界、あるいはカズオ・イシグロの『わたしを離さないで』のような未来界の到来を感じる次第である。

折しも、地球規模の気候変動が襲来し、また国によっては農業従事者の高齢化が問題となっている。
こうしたとき、食物工場製の野菜は、農業の高度化として期待がよせられている。
現に、歩留まりが悪い、異物混入、日持が悪い、味・食感が安定しないということに対しても効果が見られという。

☆村営植物工場
しかし訊いてみると、いかんせん投資額が高すぎる。5億、10億の規模であるというから、植物工場事業は、大企業しか手が出ないのが現状である。
となると、個人の農家はどうなるか。もう目に見えている。
方法はないのか・・・?

話は変わるが、かつて「民営化」の大合唱が喚き起り、国鉄の自由化、郵政民営化が成った。それで犠牲になった人たちはたくさんいる。たとえば、北海道オホーツク海岸を走る列車などは赤字路線として廃止された。それを指摘すれば、「そんな所に住まなければいい」と平気で言う人がいる。
あるいは、大型店舗が進出し、その煽りで商店が潰れたが、やがてはその大型店も採算が合わずに撤退。後は荒野同然となった地区も地方にはたくさんある。
私企業の論理では、赤字でも走らなければならないという人間の尊厳を守ることは決して俎上にのらない。かくて民営化と引き換えに、日本人の心から〝〟の概念か喪失した。これが大資本の結論である。

ところが、北海道に、町民が書店経営を応援している町がある。そうしなければ、その町から書店が消えてしまうからだという。町民はネット販売の一局化を避けて、より人間味のある店の形態の存続をも忘れてはならないとしたのである。
また、ヨーロッパでは、再公有化が進んでいるという。公的事業を民営化したものの、やはり弱者が煽りを喰うことが判明し、目のゆき届く市営の電力会社が登場しているというのだ。
運営は、国営か、民営かの二者択一とはかぎらない。村営・町営・市営という地域の人たちの共同で、地域の人のために運営する組織を考えるべき時期がきている。
もはや資本主義とか、社会主義とか言っておられないことも、現代社会の混乱で証明されている。
これからは地域自立の時代である。地方消滅、都市集中、地方観光化ではない。
その解決策として、村営・町営発想の植物工場に期待したい。

《参考》
*第4回 次世代農業EXPO
*星新一 ショートショート
*カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(早川書房)

 

 

文 ☆ 食品サポート連合コメンテーター ほしひかる
写真 ☆ 星新一さんから頂いた手紙