第479話 江戸蕎麦の役割
ユネスコの無形文化遺産に登録されてから、「和食」という言葉をよく聞くようになった。しかし、日本人の「食」をわざわざ「和食」とよばなければならないところが、ちょっと歯痒いではないか。
「洋食」という言葉は、維新後まもなくの1872年ごろから使い始めたという。「日本の食」とは違っていたから区別しなければならなかったのである。ところが、この洋食が、まるで外来種が在来種の存在を脅かすように、家庭の食卓に一般的になった戦後ごろから、「普通の食」をわざわざ「和食」と言わなければならなくなった。日本の食を守ろうという意識が芽生えたのか、それとも単に「洋食」と対比していったのかは不明であるが・・・。とにかく、ここにも自ら日本文化を否定しているような傾向が伺える。
何とかならないのか?
そこでちょっと「和食」、そして「蕎麦」の世界の思うところを見てみよう。
われわれの食は・・・、
・ご飯を主食としている。
・汁物が好きである。
・魚を食べる。
・切って、煮る料理が主である。
(庖丁は厨房の日本刀)
・味の基本は旨味(鰹節・昆布・椎茸)である。
・調味料の主役は醤油である。
・甘味が必要な時は味醂を使う。
・食器が多彩である。
・盛付に気を使う。
(盛付は食卓の日本庭園)
・箸だけで食べる。その箸先は細い。
・小碗(椀)を手に持って食べる。
・乾燥した香辛料より、生の薬味を好む。
・残さず、きれいに食べる。
われわれの蕎麦は・・・、
・蕎麦粉は篩で篩ってから使用する。
・庖丁で角が立つように切って麺にする。
・冷たい蕎麦が好き。
・盛付に気を使う。
・つゆは醤油+砂糖・味醂+鰹出汁で作る。
・つゆに付けて食べる。
・水切れのいい竹笊、濃いつゆが映える白磁の猪口を使う。
全てに、自然崇拝と自律と品格のよさがあふれているような気がする。それが端的に表現されているのが蕎麦文化である。だから、これを伝えることが和食文化を守ることにつながるだろう。
〔文・絵 ☆ 江戸ソバリエ認定委員長 ほしひかる〕