第218話全国ご当地そば祭りinすぎと
ここは埼玉県の北部に位置する杉戸町、江戸時代は日光街道五番目の「杉戸宿」といった。
この町で蕎麦打を教える安田武司さん(彩蕎庵)はこれまで数々の名人位を獲得してきた。そんな彼が蕎麦打仲間の小川伊七さん(小川道場)らと、蕎麦で町起こしをやろうと発起人になり、平成25年4月に実行委員会を立ち上げた。小川さんは七代目の杉戸町長(1991年~2007年)も務めたこともある町の顔でもあった。
話は少し逸れるが、何年か前までの社会人といえば働いている人だけを指していた。それが高齢化社会となった今日、社会人は現役とOBの二本柱になった感がある。その二者の特質は、現役は豊かな情報に浴する機会に恵まれているが、どうしても立場上、利益者代表的な行動をとらざるを得ない。逆に、職を卒業したOBは現役に比べて情報量が少なくなる傾向はいたしかたないとしても、それだけに所属・立場にとらわれることなく大所高所から物事を見ることができるようになる。
まさに、お二人の思いがそうであった。杉戸町という一地域で蕎麦祭りを実行しても、「杉戸町」ということに囚われることなく、各地に伝わる蕎麦のために尽そう。当地を全国の個性ある名物蕎麦を披露できる場にし、埼玉ひいては武蔵の国を蕎麦の消費地として活性化しようではないかということで、「全国ご当地そば祭りinすぎと」を企画した。
こうした方針をもって各委員が全国を飛び回ったところ、にしん蕎麦(京都)、越前おろし蕎麦(福井)、高遠蕎麦(長野)、とうじ蕎麦(長野)、本山蕎麦(長野)、信州ぼくち蕎麦(長野)、へぎ蕎麦(新潟)、けんちん蕎麦(茨城)、会津磐梯そば(福島)、板そば(山形)、蟹天ぷら蕎麦(北海道)、にしん蕎麦(北海道)などが出展されることとなった。
蕎麦打名人戦においても、同じ理念が貫かれた。ご当地自慢のうまい蕎麦を打つ名人を発掘しようという考えから、「武蔵の国そば打ち名人戦」を開催することになった。
「全国ご当地そば祭りinすぎと」は、いわば美味しいお蕎麦のオリンピックだ。こうした杉戸方式は、これからの日本の、ひとつの方向を示しているかもしれない。
さて、そば祭りの当日、あいにくダブル台風が襲来した。それでも初日は約5000人、2日目の台風一過の青空の下では約2万人のお客さまが各地のお蕎麦を楽しまれた。
それから、武蔵の国の名人戦については、審査体制に特色をもたせた。よく各地で行われている名人戦の審査員は数名だが、当会では7名、そして食味テストにいたっては、計15名の審査員をおいた。審査というのはなかなか微妙かつ難しいもので、審査員の数を増やすことで、より客観的な評価をしたいというのが、審査員長の考えだった。これについても多くの人から支持する声が起きていた。
ともあれ、祭り、名人戦ともに来年度開催が期待されるほど、大成功だった。
〔全国ご当地そば祭り実行委員、武蔵の国そば打ち名人戦審査員☆ほしひかる〕