第223話 巡る十二支
正月だから、それらしい話をしよう♪
☆東京駅と武雄温泉
東京駅丸の内の北口と南口ホールに立って高い天井を見上げると、建物が八角ドームになっていることが分かる。そして拡がったところに丑・寅・辰・巳・未・申・戌・亥の八つのレリーフが施されていて、卯・酉・午・子はここにいない。八角だから【十二 - 八 = 四】と仕方ない点もあるが、それにしてもチョット変である。
そう。本来なら、子(北)・丑(北北東)・寅(東北東)・卯(東)・辰(東南東)・巳(南南東)・午(南)・未(南南西)・申(西南西)・酉(西)・戌(西北西)・亥(北北西)だから、たとえば丑は北北東に位置しなければならないところ、無理して八等分にしてあるため、ややずれて配置してあるのである。
いっそのこと、「十二支のレリーフを使うくらいなら、八角でなく十二角ドームにすればよかったのでは!」とか、「無理して十二支を持ち出さなくても、花のレリーフにでもすればよかったのでは!」といった疑義をもつとしたら、東京の人はその答に窮するだろう。
しかしながら、佐賀県人は知っている。東京駅丸の内駅舎は八角ドームに十二支を並べなければならなかったことを!
実は、この駅舎を手がけた人物は佐賀県出身の辰野金吾(1854~1919)という建築家であるが、当初は確かに「十二角ドームに十二支を配置」した設計になっていた。ところがある夜、そのうちの四支が逃走してしまった。
辰野は、ほぼ同時(大正3年)に武雄温泉(佐賀県武雄市)の楼門を設計していた。が、何とその温泉の楼門天井に東京から逃げ出した卯・酉・午・子がいるではないか。そこで辰野は丸の内駅舎と武雄温泉楼門を一セット、つまり【東京+武雄=十二支】で設計したというわけである。
というのは、私の妄想である。 が、ここに辰野の遊び心が見受けられるのはいなめない。それとも、そこには隠された暗号が? などとちょっとミステリーじみたことも考えられる。
加えて、東京駅は大正3年(1914 年)12 月20 日に誕生しているから、今年2014年の暮で100歳ということになる。余談ながら、ニューヨークのグランド・セントラル駅は1913 年2 月1 日に完成しているため、同じ年頃の東京駅と姉妹駅となっている。
そんなことなどを交えてながら、武雄温泉・東京駅・グランドセントラル駅を結ぶ百年目のミステリー・・・、なる小説を書けないものか!
「ダ・ヴィンチやダンテが遺した暗号は何か?」と発想し、『ダ・ヴィンチ・コード』や『インフェルノ』などの超ベストセラーをものにしたダン・ブラウンなら、ミステリー小説にしてしまうところだろうが、筆力のない私は、ここでストップするしかない。
☆十二支のお付合い
さてさて十二支といえば、昨年末にも恒例の「深大寺そばを味わう集い」に参加させていただいた。「味わう集い」を始めてから27年目だという。毎年深大寺蕎麦と他の産地の蕎麦が振舞われ、帰りに深大寺窯の十二支土鈴をお土産に頂けることになっている。
深大寺さんとのお付合いは「門前」の浅田さんの姪御さんと勤務先がご一緒だったご縁から始まり、もう十年以上にもなる。
「集い」の方は平成16年から参加させてもらっているから、土鈴は酉・戌・亥・子・丑・寅・卯・辰・巳・午の十支が勢揃いし、あと二支で一巡する。
そういえば、蕎麦打ち名人の寺西先生からは毎年、手作りの藁の十二支を頂戴している。こちらは亥・子・丑・寅・卯・辰・巳・午の八支が集まっているので、平成18年からご面倒をおかけしていることになる。
さらに友人の石綿さん(江戸ソバリエ・ルシック)からは十二支を描いた手作りの箸袋を頂いている。こちらは四年目で卯・辰・巳・午の四支が並ぶ。
最後に、知人の川俣さん(江戸ソバリエ・ルシック)は、毎年暦を作ってくださる。これは十二支ではないけれど、自作の版画で、四年目だ。
昨年の暮のことだった。たまたま東京駅の丸の内口の八角ドームを見上げているとき、携帯電話の呼び出し音が鳴った。川俣さんだった。「もしもし、いま何処?」「東京駅丸の内側を歩いている」「エッ!私は八重洲口にいるんだけど」「エッ!」というわけで、落合った。そして「今年もカレンダーを作ったよ」と頂いた。
頂いた暦や十二支たちを眺めていると、中島みゆきの歌が聞こえてくるようだ。
めぐるめぐるよ時代はめぐる
別れと出会いをくり返し
今日は倒れた旅人たちも
生まれ変わって歩き出すよ
昨年、祖父母や両親が倒れた人もいるだろう。私もそうだった。
しかし今年は、その子供たちや孫たちが立ち上がって歩き出す・・・。
十二支は巡り、時はめぐる!
今年が皆さんにとってよい年であるように。そう願いながら十二支の午を部屋に飾った。
〔エッセイスト、江戸ソバリエ認定委員長☆ほしひかる〕