第598話 北京・貴州紀行4
2019/12/02
~日本の出汁(湯tang)と旨味(鮮xian)~
昨今の世界情勢を見ていると、国と国の関係はなかなか難しい。だったら、都市どうしのお付合いの道があるのではという思いから、私たちは訪中する際のチーム名に都市名を冠して「北京プロジェクト」とした。
その「北京プロジェクト」が参加した、第1回目のフォーラムでは、蕎麦打ち体験と講演をした。
蕎麦打ち体験では修了証を差し上げたところ大好評だった。
講演は、蕎麦の伝来は人間が関わらなければ成しえないという考えから「人の道 蕎麦の道」として、日中の蕎麦の歴史を話した。中国の先生も中国の蕎麦史を話されたが、ほぼ一致していたので安心したものだった。
さて、第2回目のフォーラムである。第1回目と同様に蕎麦打ち体験と、その修了証は差し上げるつもりだ。
そして講演の方は、「日本の出汁と旨味」にしようと思っている。
各国を訪れると味覚の違いに遭遇する。サンフランシスコでは甘めの蕎麦汁が求められ、中国北方では鹹めの蕎麦汁が好まれた。
確かに、相手の味覚に合わせるのも一つの方法であるが、相手が食の専門家なら、日本のつゆ、出汁、旨味をキチンと説明すべきだとの考えから、今回は「日本の出汁と旨味」についてお話してみようと思っている。中国でいえば、湯(出汁)と鮮(旨味)になるだろう。
私の知る限り、日本の出汁の特徴は次の4点だと思う。
①軟水で作る。
世界の中で日本の水は軟水であることから日本の出汁が生まれた。
北京は硬水である。
②旨味成分がシンプルである。
中国の湯や西洋のブイヨンの旨味成分は多数である。
③料理をする際に、意識して先ず出汁を作る。
日本人にはお馴染みの光景であるが、世界では珍しい。
④日本の出汁をとる時間は短い。
中国料理やフランス料理では生の肉や魚に野菜を加え、
長時間煮出して出汁(中国の湯、西洋のブイヨンなど)をとる。
対して、日本の出汁の調理時間は短い
それは鰹節・昆布・煮干し・椎茸などの乾燥品を利用するからであるが、こ
の乾燥作業にすでに月日を重ねているほわけである。
こうした相違をどちらがいいというわけではない。よって立つ食文化が違うということだけである。だから、われわれ日本の食文化が第一とは言わない。ただ説明するだけである。
そもそもが、美味しさを説明するとき、〔1〕西洋では四味(甘・酸・塩・苦)+香りが中心である。〔2〕日本もそれに倣っているところがあるが、ただ、四味のに旨味を加えて五味としている。〔3〕しかし、蕎麦に関わっていると、西洋流の四味・五味や香りなどの化学的美味基準より、物理的美味基準というのが日本人にあるのではないかと、よく認定講座などで申上げている。すなわち涼感や温感、腰や喉越しなどの評価基準である。
そういう目で見れば、同じ中国料理でも〔4〕広東料理は「酸、甜(甘)、苦、鹹(塩)、辣(辛)、鮮(旨味)の六味を大事にする。〔5〕また四川料理では鹹(塩)、酸、辣(辛)、甜(甘)、麻、苦、香の七味をいい、旨味は入ってなくて辣,麻の痺れるような辛さを美味しいとする。
さて、この度訪ねる貴州は発酵文化のクニである。どんな味覚との出会いがあるか楽しみである。
〔文・挿絵 ☆ 江戸ソバリエ北京プロジェクト ほしひかる〕