健康ニュース 6月15日号 腸で肉が腐る?!
現役時代の仕事柄、今でもあちこちの健康に関する講演を、興味を持って聴きに行きます。目的は最先端の情報を知ることと、自分が講師をする時の参考にしたいという考えからですが、時にはがっかりしてしまうこともあります。
先日は、「健康と食事」という内容の講演を聴きに行きました。講師は書籍を何冊か発行している方で、宗教ではないですが、小子の周りにも信者がいます。
話を聴いているうちに「日本人には肉食は向いていない。肉を食べる習慣が定着している欧米人に比べ腸が長いからです。無理して食べると消化吸収の前に腸内で腐ってきてがんの原因にもなります。「腐」という文字は、腸の中の肉という意味があります(以下略)」
周りの方たちは頷いて聴いているようでした。
この「日本人の腸は欧米人に比べて長いから肉食には向いていない」という説には多くの問題点があります。多くはこじつけた説明しかできないということです。
今回は、腸の中で肉が腐敗している状態を「腐」という文字で表わしているという説明について反論を述べてみます。
「腐」という文字の「府」の部分は何を意味しているとこの講師はお考えだったのでしょうか。悪意でもって自説をこじつけているとしか思えません。確かに「府」には様々な意味があります。大修館発行の新漢和辞典には8つの意味が書いてあり、7番目に「はらわた。腑に通ずる」とあります。講師は強引にこの解釈に話を持ってきたかったのでしょうか。
「府」の解説のトップは、「くら」という意味で、物を入れる場所と書いてあります。現代人の解釈なら倉庫という意味でも良いでしょう。倉庫に肉を入れて放置していたら腐りますので「腐る」という文字が生まれたのです。
「府」という漢字から「腐」を連想させ、肉食、腸の長さ、腐敗とまるで連想ゲームのような説明の仕方は、まったく非科学的であり、何の根拠も無いことを今更説明することはないでしょう。
「日本人の腸は欧米人に比べて長い」といいますが、欧米人とは具体的にどこの国の人を指しているのでしょうか。アメリカ人は多種民族国家ですし、ヨーロッパも多民族から構成されています。この説を言う人たちは、比べる民族をあやふやにしていると言えるでしょう。それは実際に解剖をして比べていないからかもしれません。
もっとも非科学的なことは、どれぐらい長いのかを明確にしていないことです。5㎝とか10㎝長いというならばそれは誤差の範囲内といえます。
この都市伝説「日本人の腸は欧米人に比べて長いので肉食には向いていない」は、わが国がまだ貧しく肉はぜいたく品だ、という時代に、お肉を食べたいという国民の切なる願望を諦めさせるために、軍寄りのお抱え学者が言い始めた、という説があります。
調べてみると腸の長さは身長に準ずるという論文発表もあります。とすれは身長の高い欧米人の方が腸は長いのかもしれません。一説によりますと「アルカリ性食品は酸性食品より体に良い」「日の丸弁当は健康」などの説も、食事内容に不満を持たせないための国策から発生した同類の都市伝説ということです。 近 竹将