第685話 風と共に去りぬ

      2021/01/05  

『世界蕎麦文学全集』物語 27

   まだ奴隷制度が残る1860年代の南北戦争のころの、アメリカ南部ジョージア州を舞台にした小説『風とともに去りぬ』はあまりにも有名だが、あらすじだけを少しだけ紹介する。
 主人公のスカーレットは<タラ>農場のお嬢様。美人で活発でわがままな彼女はアシュリとの結婚を望んでいたが、何と彼は従妹のメラニーと結婚してしまった。自棄になったスカーレツトはメラニーの兄を初婚の相手として選ぶが、その夫は南北戦争で戦死。
  スカーレットはジョージア州のアトランタへ移住、未亡人となった彼女に近づく成金のレット・バトラー。だが、彼女は違う男と再婚するが、またもや死別。アトランタは戦火が烈しくなる一方、スカーレットはレットの助けで脱出し、故郷の<タラ>へ。しかし実家の母は病死、父は自失。スカーレットは故郷再建を決意する。       
  だが、時代の波は旧支配階級に容赦はない。やむなく彼女は悪徳事業家のレットバトラーと結婚するが、子供の死で夫婦間にヒビが入る。
  「風」とは時代のこと、「去りぬ」とは昔日の上層階級が崩れてゆくという意味である。父は「土地(故郷)は母親」と言っていた。スカーレットのもって生まれた勝気が頭をもたげ、<タラ>の地での事業に奮戦する。それは著者のマーガレット・ミッチェル夫人(1900~45)の意志の投影だったといわれる。 
 なぜなら、先進国のヨーロッパですら女性の地位が認められたのは19世紀の後半。マーガレット・ミッチェル夫人が執筆した20世紀前半のアメリカは女性の地位はまだ確立していなかった。だからマーガレット夫人はスカーレットに苦難の道を歩ませ、女性の不屈の精神を見せたかったのである。
 
 話は戻って、物語が始まる古きよき時代、スカーレットはまだ16歳のお嬢様だったころ ~ 1861年4月の暖かい朝、女中のマミーがスカーレット・オハラの部屋に朝食を運んで来る。その大きな手には盆があり、その上には、薫製料理、バターをのせた大きなヤムイモ(アメリカ南部のサツマイモ)二切れ、シロップの滴る《蕎麦粉のパンケーキ》が一盛り、グレーヴィ・ソースのたっぷりかかった分厚いハムが一切れのせられている。~
  そのシロップは『大草原の小さな家』と同様の糖蜜だろうか。だとすれば、その甘い《蕎麦粉のパンケーキ》は、幸せだったころのスカーレットの思い出の食べ物なのかもしれない。

『世界蕎麦文学全集』
52.マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』

文:江戸ソバリエ認定委員長 ほし☆ひかる
映画のポスター:ネットより