健康ニュース 4月15日号 日本人の腸の長さ論

     

令和の時代になってもまだ「日本人の腸は欧米人の腸に比べて長い。故に肉食には向いていない。米を代表とする穀類中心の食生活に向いている」と思っている方が多いことには少し驚きを感じています。

三つの観点からこの説の矛盾点を挙げてみます。

その一、日本人の腸は欧米人に比べて何メートルまたは何センチメートル長いのかを、具体的に明確にしている学者や論文は皆無です。

その二、欧米人とは、具体的にどの国の、どの民族と比べているのでしょうか?漠然とし過ぎていると思いませんか?ヨーロッパ人といっても幾多の民族があります。アメリカ合衆国は多民族国家として知られています。一言で欧米人といって、腸の長さを論じるにはあまりにも大雑把すぎると思います。

その三、肉食動物と草食動物の腸の長さを比較したうえで、日本人の食生活は穀類中心にすべきと言っておられるのでしょうか?

多くの関連書には、人の腸の長さは身長に比例するとあります。日本人とか他の民族毎の列記は皆無です。身長の約5倍、およそ7~8㍍という記載が多いです。この説からいえることは、平均身長が日本人より高い欧米人のほうが、腸は長いと言えないでしょうか?

その一とその二についてはご理解いただけたことでしょう。その三について述べてみます。

人の腸の長さは身長の約5倍。米が主食の日本人も、肉をよく食べるアメリカ人にも大差はありません。

では肉食動物の代表ライオンはどうかについて調べてみました。ライオンの腸の長さは体長の約4倍の約7メートルということが分かりました。体長の4~5倍の腸の長さには、ライオンの他に、イヌやネコも入っています。イヌはおよそ5メートル、ネコはおよそ2メートルが平均的な腸の長さです。

一方、草食動物の腸の長さがどうなのかについて調べると、大変興味ある結果が出ました。ウシの腸の長さは体長の約22倍の約57メートルです。ヒツジは体長の約34倍の32メートルですから、草食動物の腸は肉食動物のそれに比べて断トツに長いと言えましょう。

日本人の腸は長いのだから、肉食には向いていないという説が滑稽に見えてこないでしょうか。

この「日本人の腸は長いので肉食には向いていない」という説が流布したのは何故でしょうか?

諸説ありますが信憑性の高い説の一つには、次のようなものがあります。

1920年代から始まった国を挙げての戦争体制準備は、国民に「ぜいたくは敵だ!」というスローガンを徹底させました。

「お肉を食べたい!」という国民のささやかな夢を、我慢させるために「日本人の腸は長く肉食には向いていない」という説を国サイドに立った学者が言い出したのではないかという説です。

同様な説に「アルカリ性食品は健康的だが、酸性食品は健康に良くない」というものがあります。この説も現代では一笑に付せられるものであることは明らかです。

しかし食べ物の絶対量が極端に少なかった時代、白いご飯に梅干しの乗った日の丸弁当は、国民の飢えをしのぎ活力源となったのも確かです。

権力者にゴマをする学者が言い始めた食に関する言い伝えは、庶民に我慢を強いるものが多いです。今も残る数々の言い伝え。面白いものが数多くあります。もっと取り上げ、納得できるかを追究したいと思っています。近 竹将