第726話 小松庵銀座店、森の時間
江戸蕎麦の老舗「小松庵」の銀座店では、平日の16:00~17:00をギャラリー・タイム【森の時間】として開放しています。その時間には定期的に開催されている展示作品をゆっくり鑑賞したり、月に数日は展示中の作家さんの話を開いたり、また蕎麦に関する話やいろんな方の出演が企画されています。
私も、蕎麦粉ブレンダーの黒沢さんがお話される日に3回ほどお邪魔して、彼の生粉打ち、蕎麦の産地、製粉についての話をうかがいました。
また、それとは別の日にはアーティストの小林雅子さんの展示作品を拝見したり、画家の山本ミノさんの話を聞いたりしました。
その小林さんの作品というのが衝撃的でした。文庫本をカッターで切り刻んでアート作品にしてあるのです。たとえばヘミングウェイの『老人と海』はご覧のとおりです。本好きにとっては身を削られるような感じにはなるかもしれませんが、とにかくこういうアートは初めてでした。と当時に何かがウズウズしてくるのです。
帰宅してから本棚に目をやりますと、新島繁著の『そば歳時記』という文庫本が2冊並んでいます。むかし読んだことを忘れてまた買ったものですが、何となく処分しきれないままにしていたのです。そこで1冊を取り上げて、前に描いた《ざる蕎麦》の絵と箸もどきの竹を表紙に貼り付け、たまたまあった小石に山葵の絵を描いて置いてみました。でも、にわか作りのためご覧のとおりのお粗末な物です。その点、小林さんの作品は格調高いアートであるなとしみじみと思いました。
そして、捨てられる運命の本もこうして楽しめるならそれはそれでいいじゃないかと考え直したのでした。
先日は、現在展示中の山本ミノさんと、彼の親友である風戸さんの対談を聞きました。
山本ミノさんの作品テーマは「N.Y-URBAN FOREST」と題されていて、いずれもN.Yの有名なビルが都会に茂る大樹のようなイメージでメルヘンに描かれてあります。
山本さんご本人が銀座の小松庵の部屋と壁をご覧になったうえで、NewYork滞在中に描いた、このタッチの絵が相応しいと感じたということでした。
実は小生も、数年前に銀座とNewYorkを舞台にした拙い小説を書いたことがあります。要は国と国との関係が政治的に難しくなつたときは、大都市がもっと強くなればいい。そのために銀座は世界のなかでどんな景色になるべきだろうかとの思いで書いたつもりですが、思いはあっても、筆力が追いつかなかったからあまり上手く書けませんでした。しかしながら、書けなかったからこそ、〝これからの都市〟という問題がまだ解決しないままです。そのため、銀座の小松庵さんの【森の時間】の考えにご協力したくなったわけです。
そんなときの、「N.Y-URBAN FOREST」はタイムリーなテーマのように思います。
ところで、山本ミノさんのお話によると、江戸ソバリエの店「蕪村居」の沼尻さんが、山本さんの絵を購入されたことがあるというのです。それをうかがって、「これぞURBAN FOREST!」 絵の奥に見えないつながりがあるのだと嬉しくなりました。
〔江戸ソバリエ認定委員長 ほし☆ひかる〕
小林雅子「老人と海」
ほし「そば歳時記」
山本ミノ展案内より
ほし「ブルックリン橋」