第763話 六麺吟味
2021/12/30
一麺:川越の蕎麦
北川さんのお誘いで「蕎麦食べ比べの会」(第762話)に参加したとき、江戸ソバリエ倶楽部有志の皆さんが川越で栽培した蕎麦粉が入っていた。
会が終了してから、その川越蕎麦を一ノ瀬さんが改めて打って送ってくれた。
《ざる蕎麦》にして食べたが美味しかった。何が美味しいかというと蕎麦の新鮮さと涼味が際立っていた。第762話で述べた〝旬〟の醍醐味だった。うかがってみると、先日の「食べ比べ会」のは川越蕎麦の規格外(a)だったが、送ったのは川越産の規格内(A)蕎麦粉を二八で打ったという。
とすると、不思議だった。「食べ比べ会」には他の某所産の規格内(B)と規格外(b)があった。当日の私の評価では(B)が(b)よりやや上であったが、その差はあまりなかった。
だというのに、一方の川越(A)(a)は格段の差があって、本日のは新鮮さが最高であった。そこでまたうかがってみると、川越規格外は加工時の割れ粉とのことだった。コーヒー豆も割れたり欠けたりした豆は美味しくないが、蕎麦粉もそうなのかと思った。
とすると、「規格外」というのはその中身が問題となるということが分かった。
第762話 新・美味論 - ほしひかるの蕎麦談義 - フードボイス (fv1.jp)
二麺:千葉在来
赤尾さんの習志野の砂村せんき稲荷参りに同道させてもらった(第761話)。
その折に赤尾さんはここは千葉だからと言って千葉在来をお稲荷さんに奉納された。そのついでに私も、赤尾さん手打ちの千葉在来を頂いたので、帰宅してから茹でて《ざる蕎麦》で食べた。〝腰〟とはちょっとちがった、やや弾力性のある美味しい蕎麦だった。この〝やや〟というのが私は好みだ。あまり弾力性がありすぎるのもゴムみたいで嫌だし、また軟らかすぎるのも好きではない。この微妙さが第762話の「新・美味論」で述べた触感の妙だと思った。
第761話 砂村せんき稲荷ものがたり - ほしひかるの蕎麦談義 - フードボイス (fv1.jp)
三麺:自然薯麺 水雲入り
組合まつりというのが開催されていて都麺連が《二八蕎麦》を振る舞っていた。この「蕎麦談義」を掲載させてくれているのフードボイス社が都麺連の取材をしてくれた。
その後で新田社長が沖縄県伝統作物生産事業協同の安里代表を紹介してくれた。帰り際に沖縄の自然薯麺水雲入りを頂いたので帰宅してから、温かい《釜揚げ》にして食べた。ご覧のとおり黒めの麺だったが、美味しかった。
食べた後で、色が黒いので蕎麦と勘違いしたわけではないが、思いつきで麺湯を蕎麦湯のようにして飲んでみた。そうしたらこれが意外にイケた。たぶん山芋と水雲の味だったのだろう。
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四麺:白石の温麺
同じ組合まつりの会場に《温麺=うーめん》が展示されていた。話に聞いていたので、どんなものだろうと思って購入した。ご覧のとおり長さは短く9センチ、そして細さは素麺のような饂飩である。食べるときは温かい《かけ》にして食べたが、感想も饂飩素麺(うどんそーめん)のようだった。だから《うーめん》というのか、と納得しつつ、長い間どういうものだろうと疑問だったのが、今日解決できてスッキリした。
五麺:蕎麦パスタ
ピッツオケリ研究会(第757、760話)の時に、大分の《蕎麦パスタ》が余ったので、頂いて帰った。《ピッツオケリ》は郷土料理、それ以前は家庭料理なんだ、だから適当でいいんだと言い訳しながら、冷蔵庫に入っている野菜などを使って、蕎麦ではあるが一般的な《パスタ》として食べた。でも、貝状のこのパスタは、つるつる麺の仲間だろうかと疑問をもってしまう。
これまで述べたように日本の麺は、【涼性麺】と【温性麺】に分けられるが、海外の麺には涼性の麺はないから、【汁あり麺】と【汁なし麺】に分けられる。そして中国麺は【汁あり麺】が多く、イタリアは【汁なし麺】が多い。だから上で一般的な《パスタ》と言ったのは、【汁なし麺】とご理解いただきたい。
しかし、【汁なし麺】は日本人の触感からすればどうしてもつるつる麺とは思えないような気がする。
第757話 ヴァルテッリーナのピッツオケリⅠ - ほしひかるの蕎麦談義 - フードボイス (fv1.jp)
第760話 ヴァルテッリーナの《ピッツオケリ》Ⅱ - ほしひかるの蕎麦談義 - フードボイス (fv1.jp)
六麺:スープパスタ
砂村せんき稲荷(第761話)にお参りに行くために、赤尾さんと某駅で12:45に待ち合わせた。お昼どきだから昼食は済ませておかなければならないところだが、私は遠出するときは現地で食事をとることにしている。よって早めに某駅に着いた。ところが、駅の周囲には外食屋はない。住宅街である。困ったが念のためにと思ってブラプラをしているとイタリアンが目に入った。選択の自由はないから飛び込んだ。店内にはお客さんが5組、私で6組目。さっそくメニューを見たら《スープパスタ》らしきものがあったので、迷わず注文した。理由は《スープパスタ》を出す店はめったにないから、今日はチャンスだと思ったからだ。厨房を見ると、オーナーらしきイタリア人のシェフが口笛を吹いたり、鼻歌を歌ったりしながら、楽しそうに料理をしていた。でも、ン?と嫌な予感がしてたので周りを見たら、不安的中、食べているお客は一組だけ、あとは料理を待っている。シェフは明るく楽しそうだが、料理がなかなかすすまない。しまった! 間に合うかな。それに、シェフはマスクもしていない。奥さんらしきスタッフも、お客もみんなマスクだというのに。ア~ァと思いながら、時計を見ると、あと20分。普通なら間に合うはずだが、これは難しそうだ。「悪いけれど、お支払いますから、約束があるので・・・」と奥さんらしき人に申し出ると、「優先してお出ししますよ」とのことなので先に支払いをして、待っていたら、45分にテーブルに準備された。それでも間に合わない。何しろ今日お訪ねする方は自分の知っている人ではないし、しかも初回だから、遅刻するわけにはいかない。大急ぎで《スープパスタ》をスプーンですくって口に入れて3分で1/3ほど食べて、立ち上がった。背中に大きな声の「Grazie」が飛んできた。
外に出ると、赤尾さんの姿が見えた。4分の遅刻になってしまった。口の中にはやや塩からめの《スープパスタ》の味が残っていた。
〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕