第799話 竹輪蒲鉾の味

     

 作家の高田在子先生とお話しているときに、「蒲鉾作りの体験を一緒にやりましょうか」ということになりました。
 そこで懇意にさせてもらっている鈴廣のAさんに、体験教室の予約をしてもらい、蒲鉾作りの体験教室のある箱根登山鉄道の風祭駅に向いました。
  一帯は、その昔は風祭氏という武士が支配していたといいますが、現在は鈴廣蒲鉾本店、かまぼこ博物館、鈴なり市場や、食事処の「千世倭樓」や「えれんなごっそ」などが並ぶ鈴廣かまぼこの里です。
   予約は13時半でしたので、その前に千世倭樓でお蕎麦を頂きました。高田先生はお品書に目を通して珍しい《蒲鉾の掻き揚げ》をめしあがられました。

   さて、いよいよ竹輪と蒲鉾作りですが、面白いことに、一般の、竹輪と蒲鉾の材料は同じで、焼いたら竹輪に、蒸したら蒲鉾になるのですね。
  そのことは歴史にも表れていて、最初の蒲鉾は今の竹輪のように棒に魚の擂り身を付けて焼いていたそうです。それが蒲の穂のようだったから「蒲鉾」と呼んでいたといわれています。室町時代になると擂り身を板に載せて焼くようになり、江戸時代になると蒸すようになったのが現在の「蒲鉾」で、旧来の棒や竹に塗って焼いた物は「竹輪」というようになったのだそうです。
  というわけで、竹輪と蒲鉾は同じ材料を親にもつ兄弟なわけです。
  材料は、一般的な竹輪蒲鉾は白身魚を使います。白身魚はシログチ、キグチなど15種くらいあるそうです。
  実は、私の蒲鉾作り体験は14年ぶりなんですが、そのころ気づかなかったことにあらためてそうだったのかと頷くこともあるんですね。
  それは、小田原の蒲鉾は、やや硬い軟水で作るのだというのです。
  日本の水は軟水であることは常識ですが、同じ日本でも地域によってさらに軟水、やや硬水、もつと硬水と、少しずつ違うのが日本の水です。小田原をふくめた関東の水は「やや硬水」です。ここから濃口醤油+鰹出汁という江戸の味が生まれたことはソバリエなら承知のことです。
  そうしますと、江戸の蕎麦屋の《板わさ》なんていうのは生まれるべくして生まれたのだなと水論から納得したわけです。
  小田原の美味しい蒲鉾は、見た目ふっくら、噛んでぷりぷりが特徴です。
  このぷりぷりは、塩で魚肉を擦ることで、たんぱく質が溶け出して粘りが出るかららしいです。その塩は、海水を天日で干して釜で炊いて結晶にしたものと資料に書いてありました。
 これも関東の水の特質だとしたら、違う水で作られた他の地区の蒲鉾の味はどうなんだろうとか、思っているうちに、自分の竹輪と蒲鉾ができあがりました。さっそくながら、竹輪は焼いてもらい、蒲鉾は蒸してもらいます。
 待つ時間に少しお土産の蒲鉾を買ったりしてできあがりを待ちます。
   竹輪は焼き立て、蒲鉾は少し冷やした方が美味しいといいます。
   幼いころ、「マーケット」と呼ばれる商店街で竹輪を焼いている店があったような記憶があります。今はスーパーでしか売っていませんから、焼き立て竹輪というのはここの体験教室でしか味わえないでしょう。

 さてさて、帰宅してから、お店で買った蒲鉾と自作の蒲鉾を見比べてみました。職人さんが作った蒲鉾は流麗で豊満な半円形になっていますが、自作の物は痩せていて貧相です。視覚からでも美味しさに差があります。
  ふっくら、ぷりぷりの蒲鉾を頂きながら、よくよく考えていましたら、視覚味と触感、これは和食の美味しさの特徴じゃないだろうかと思った次第です。
  ごちそうさまでした。

写真:鈴廣提供
〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕