第846話 今日は私の蕎麦記念日

      2023/07/08  

 「そばの実sora」を主宰するソバリエの小池ともこさんは、蕎麦パンや蕎麦ケーキ類を作って、販売されている。
  今日は、鶴瀬のオーガニック・レストラン「3552食堂」にいらっしゃるというから久しぶりに行って、蕎麦パンを購入した。
 彼女の蕎麦パンの蕎麦粉は、気流粉砕の300メッシュだから、舌触りがよい。筑波大のH先生もワインによく合うと絶賛されているほどだ。私は蜂蜜を付けて食べることにしている。明日の朝食が楽しみだ。

 加えて、今日は、ともこさんのお仲間の今井真美さんが十割蕎麦を初めてプロとして供されるという。
 小池さん、今井さん、そして齋藤利恵さんたちとは、高遠や富士山麓への蕎麦の旅を共にしたことがあるけど、今日は久しぶりの再会だった。
 真美さんの蕎麦はよくできていた。業界では知られている生産者上野さんの成田産の蕎麦を打って、《ぶっかけ》風にして茗荷、生姜、大葉の薬味が添えてある涼し気な蕎麦だったから、暑い今日は気持よく頂けた。
 何せ今日7月1日は、真美さんのプロデビューの日。もしかしたら私がお客第一号だったのかもしれない。
 「緊張した~」と言いながらも、その顔は達成感の笑みがこぼれていた。

 その夜、真美さんからメールを頂いた。
 それには、来てくれてありがとうございます。「今日は私の蕎麦記念日となりました。」とあった。
 「記念日」か、いいなと私は思った。
 かつて、歌人の俵万智さんがこんな短歌を詠じている。
 「この味がいいねと君が言ったから7月6日はサラダ記念日
 〝君〟が単に「美味しかったね」では済まさずに、「味がいいね」と言ってくれたから、この味を忘れないために7月6日を「記念日」にしようと彼女は思ったのだろう。
 そこには、あの世阿弥の「初心忘るべからず」の心があるように思う。意味は「いつまでも忘れず自分を磨き続けよう」ということだけど、「記念日」を設けていれば、いつまでも忘れなくて済むというちょっとしたチェック・システムになるというわけである。

 私は目の先のことだけに目を奪われ、過ぎたことを気にしないという短所がある。それゆえに「記念日」ということに憧れている。だからだろうか、若い人から「記念日」というメールを頂いたとき、応援しなければという気持になった。

〔江戸ソバリエ協会 ほし☆ひかる〕