第879話 世界農業遺産
2024/02/03
味の素食の文化センターの人に誘われて、世界農業遺産のシンポジウムに参加した。
テーマは「未来豊かな食を考えるー里山と海をつなぐ世界農業遺産」。
講演は、佐藤洋一郎先生(ふじのくに地球環境史ミュージアム館長)、阿部健一先生(総合地球環境学研究所教授)の2名。トークセッションは、講師に加えて、大津愛梨さん(02Farm共同代表)、コウケンテツさん(料理研究家)、青田朋恵さん(琵琶湖システム広報大使)の5名。主催は味の素食の文化センターと人間文化研究機構。
「世界農業遺産」などという言葉は、最近よく耳にするし、農水省のホームページを見れば説明してある。しかし、ネットでは字面だけ眺めているようなところがあって、やはり今日のように直接お話を伺った方が、よき理解者へ近づけると思う。
たとえば、「農業の多面的機能 5つの基準」として、①食糧の生産性、②生物多様性、③地域性、④文化性、⑤景観があることは聞いている。
これに、わが国はグローバル化の影響をもろに受け、世界中から食材を集めた。そのことで伝統的な食文化のシステムが失われ、農地が放棄され、そこに野生動物が入り込んできた。と解説されると、「最近の熊・猪・鹿の被害は、そういうことだったのか」と納得がいく。しかも、時代の波に流されないにはどうすればよいかの判断決断基準「価値の遠近法」までご教示いただいたのである。
❶絶対に見失ってはならないもの。
❷あってもいいけど、なくてもいいもの。
❸端的になくてもよいもの。
➍絶対にあってはならないこと。
この価値の遠近法は、あらゆる使用価値が高い。それもそのはず哲学者の鷲見清一さんの知恵だという。
また、今回のテーマの「景観:里山と海をつなぐ」ということも意味深い。
われわれ江戸ソバリエは、中国の麺やイタリアのパスタに比べ、江戸蕎麦が水なくしては完成しなかったことをよく理解している。それは水資源豊富な列島だからこその麺文明である。しかしながら、その豊富さが狂うと自然災害が起きるという話が出た。振り返れば、バブルが崩壊したのは1991年、それまでは我が世の春だった。ところが崩壊以降は災害続きである。当時の都知事が天罰と発言したらマスコミは不謹慎だと一斉に叩いた。しかしそれは当事者に向けて言ったのではなく、日本人としての「価値の遠近法」の視点からの言葉だったと思う。
今日の「農業の多面的機能」ということは、大きな地震から年が明けた今年だからこそふさわしく、また大きなテーマになった。日本列島の新たな取組が始まったような気がする。
江戸ソバリエ協会 理事長
和食文化継承リーダー
ほし☆ひかる