第913話 幸せな桃の時間
2024/08/14
今の夏も桃をたくさん食べた。段ボール2箱ぐらいは食べた。
これまではこんなに桃を食べたことがなかったが、数年前に知人から山形の桃を段ボールでいただくようになってから、桃が大好きになった。
薄桃色に、仄かな甘い香り、そして口にしたときの柔らかさと、その味の軽い甘さは幸せな食味だった。私は、桃ほど幸せな気分になる果物は他にないと思うようにまでになった。
実際、子供のころ、故郷に多かった蜜柑にはそういう幸せはなかった。西瓜にもなかった。地域柄縁遠かった林檎にもないし、高価なメロンの香りとも違う優しさが桃にあると思った。
そういうときに、あるソバリエさんの実家が果物農家だと聞いた。うかがうと「取引している信州飯田の桃は美味しい」と言う。さっそくまた桃を段ボール1箱買った。
計2箱となると、ご近所さんにお裾分けしても、毎日1個を10日ぐらい食べ続けられる。そのくらい食べると、本当に幸せな時間をもつことができる。おそらく桃の方も同じように思ってくれるだろう。
という風に私が、果物を意識するようになったきっかけは、正岡子規の『果物帖』というエッセイを読んでからだった。その『果物帖』をヒントに舌学ノートを考案したのは20年以上も前だった。このことは講座のときにもお話したりしたことがあるから、ここでは詳細は割愛させていただく。
それから、興味をもった果物は、食べた後、絵にしたりするようになった。
しかし、素人だから上手く描けたときと駄目なときがある。
そういうときは「下手も絵のうち」と言った画家熊谷守一の言葉を言い訳にして、相変わらず下手な絵を描いている。
エッセイスト
ほし☆ひかる