第259話 色を味わう
お国そば物語⑳
よく美味学では、味+風味+食味+環境=美味、だという。
これを蕎麦に当てはめると、どうなるか?
たぶん理屈的に述べれば、次のようになるだろう。
・味とは → 甘味・塩味・旨味・酸味・苦味・渋味のことをいう。
蕎麦でいえば、つゆの旨味、キレ味が決め手だろう。
・風味とは → 気や嗅覚をいう。
蕎麦でいえば、蕎麦の香り、つゆのコク、薬味に感じる気が決め手だろう。
・食味 →触覚・食感・視覚・聴覚をいう。
蕎麦でいえば、蕎麦の冷たさ・温かさ、蕎麦のコシ・喉越し、つや・細さ、つゆの深い色、蕎麦を食べる時の音感ということになるだろう。
・環境 → 個人的状態や伝統文化などをいうが、ここでは狭義(味+風味+食味)に限定するとして、詳しくは触れないでおこう。
総じて蕎麦の香り、コシ、喉越し、つゆのコクとキレ味ということが一般的にはいわれてきたが、ここで気付くことは蕎麦を語るに色彩感覚が乏しいことである。
ところが最近、長野県野菜花き試験場が育成した新品種「ひすいそば」が話題になっている。特色は早刈りの蕎麦の実の色のように、美しい翡翠色をしているところにある。そこから、それを前面に出して名前も「ひすいそば」としたという。
先日、その「ひすいそば」のお披露目会があり、ひすい色のお蕎麦を頂く機会があった。噂通り、色、香り、そして蕎麦らしい風味がして、なかなか美味しかった。これなら食べるとき、イヤ打つ人ですら、色を楽しむことができるだろう。
江戸初期の、朱子学者林信篤ですら、すでに「食に形あり、色あり、気あり、味わいあり」と述べているが、色彩も食における至福感に寄与する条件であることはまちがいない。
話は変わるが、人気歌手きゃりーぱゃみゅぱみゅのアートディレクターである増田セバスチャン氏は、〝カワイイ〟を訴求点にしていることで有名である。
色が明るくさせてくれる、楽しくさせてくれる、あるいは色の力で好きになるということを彼は実践されているのであるが、〝カワイイ〟ということはさて置くとしても、色の可能性を追求する姿勢としては賛同できる。
われわれも、蕎麦が運ばれてきたら箸を付ける前に、もっともっと色を楽しむ習慣をつけたいものだと思う。
参考:「信州ひすいそば」記者発表会(26.10.30・銀座NAGANO)、人見必大『本朝食鑑』(東洋文庫)、「蕎麦談義」第252話
〔ひすいそば応援団、エッセイスト ☆ ほしひかる〕