第943話 堀井良教氏が「現代の名工」に
~ 受賞の美学 ~
☆受賞祝賀会
総本家更科堀井の堀井良教社長様が、令和6年度の厚生労働省の「現代の名工」に選ばれましたので、その祝賀会(発起人代表:キッコーマン㈱名誉会長茂木友三郎)が、本年5月ホテルニューオータニ東京(千代田区)で開催されました。
お祝いに駆け付けたのは、蕎麦業界から更科一門、木鉢会、江戸ソバリエ協会、そして日本の料理界を牽引していますレジェンドシェフなど164名です。
また料理は、発起人のシェフのご協力による垂涎のご馳走が並んでいました。このような会ではホテルのシェフによる料理だけが供されるところですが、それに加えて名店の料理が楽しめるというのは、かなり珍しい形式です。
= 「総本家 更科堀井」の更科蕎麦、「神楽坂 天孝」の小海老の掻揚げ、「うなぎ割烹 大江戸」の鰻くりから焼き、「shojin宗吾」の信州蒸し、「Wakiya」のローストビーフ入り麻婆丼、「オテル・ドゥ・ミクニ」のハンバーグステーキフルーツ味、「人形町 今半」のすき焼き =
祝辞ではキッコーマンの茂木名誉会長、小池都知事、虎屋の黒川会長、菊の井の村田代表、人形町今半の高岡社長、Wakiyaの脇屋代表、かんだやぶそばの堀田会長から、蕎麦の伝統と新たな可能性を追求する堀井社長の日ごろの姿勢を讃えられました。
堀井社長の受賞は、推薦人の故・服部幸應先生(服部学園)の「専門料理に脚光を」という強い思いからだったそうです。専門料理の代表は江戸四大食(江戸蕎麦、鰻飯、天麩羅、握鮨)です。その江戸蕎麦の代表ともいえる更科蕎麦の手わざは東京の宝であるとして選ばれたわけです。会場では、受賞はこれからの蕎麦職人や若手の希望になるという声があがっていました。
それを受けるような形で堀井良教社長のご子息の良光・良広ご兄弟の「蕎麦の可能性を追求し、次の100年に繋いでいく」、それには1)蕎麦を食べる人口を増やす、2)蕎麦の価値を高めるなどと、決意を発表されました。
終わりに際して、堀井社長がお礼を述べられ、堀井家8代目の良造会長、9代目の良教社長、ご子息の良光・良広兄弟、そして生後9ケ月の空良くんの堀井家四代が登壇されて、受賞は良造会長のお蔭だとして良教社長が会長に花束を贈られ、また良光・良広兄弟は父を尊敬すると言われました。そのとき会場から盛大な拍手がわきましたが、とくに頼もしきご兄弟が更科堀井家の朝日のように輝いていました。
最後に、銀座寿司幸の杉山代表の三本締めで受賞祝賀会はめでたく終了しました。
☆現代の名工
ところで、「現代の名工」という言葉は通称としてむ認められてはいますが、正しくは、卓越した技能者表彰制度に基づいて、厚生労働大臣によって表彰される卓越した技能者(卓越技能者)ということだそうです。
この「現代の名工」について分かりやすい説明は、先の令和七年五月場所で技能賞を受賞した若隆景関(荒汐部屋)に対する舞の海氏(元小結)の解説が適切だと思います。
=若隆景関はいわば現代の名工ですね。投げなら投げの、押しなら押しの技の手順を教科書通りにやります。ですから、若手はみな若隆景関の取り口を見習っています=
卓越した技能というのは、そうした型を学んで、型を身に付けることだと思います。そしてその型があるのが専門職の世界ではないでしょうか。
ですから筆者は、職業となった江戸の蕎麦屋の蕎麦には型があり、家庭料理や村の料理の良さを保持している郷土蕎麦には型がない、と申し上げているのもここからです。
☆受賞の美学
そこで、よく耳にしますが世間・社会の慶事には二種類があります。
一つは誕生、入学、卒業、成人、入社、結婚、金婚式、喜寿、傘寿、卒寿など、いえば人生の通過点みたいなことを祝う個人的慶事。
二つはスポーツ大会の金メダルや優勝、芸術作品類の優秀賞、あるいは仕事に寄与した実績に対して表彰され勲章を授かることなどの社会的慶事です。
前者は、基本的には身内で祝ってくれるものです。
これに対して後者は、社会的影響というものがあります。
大谷選手が所属するドジャースが優勝すれば、日本人は誇らしく思います。大の里が優勝すれば石川県民は勇気をもらいます。
堀井社長の受賞は、堀井家だけの喜びに留まりません。更科一門、江戸蕎麦の業界や江戸蕎麦を愛する人たち、全国の蕎麦業界や蕎麦好きの人たちが嬉しく誇りに思います。受賞を機にみんなが盛り上がる。そしてあとに続こうという志をもつ人も出てきます。そのための授賞制度だと思います。
以 上
江戸ソバリエ協会
ほし☆ひかる