食の今昔物語 12か月の裏表 6月編
2016/07/01
日本人の心や精神を伝えるもの。ある時代の食べ物に関する習慣を伝えるもの。健康と食べ物に深い関係があると考えられるもの。
自然とともに生きていた時代の人々が、食と生活に関して言い続け伝えてきたことの中には、今考えると何故このことを知っていたのだろうか、と不思議に思うことも多々あります。これらの伝聞を、迷信とか伝説という言葉で切り捨てるのではなく、言い伝えの裏付けを見つけ、有意義なことならば私たちも、子供や孫たちにも語り伝え、守り続けていかなくてはならないのではないかという考えから書き始めました。
私たち日本人の食生活は多様化しているよく言われています。反面、食に関する行事や習慣には、生活と根強く密着しているものが多いということも万人が認めることでしょう。そこで私たちの生活の中で、特に月々の行事や習慣と根強く結びついているものを中心に代表的なものを選んでみました。
その中には一部ですが、それほど時日を経過していないにもかかわらず、都市伝説的に信じられているのではないかと考えられるものなどがいくつかあります。こういったものも含めて、たとえへそ曲がり者の見解といわれようが世間の視点とは少し異なった観点から考えてみました。
六月・・・冷奴とかつお節
暑くなり始める時期には、居酒屋などでは冷奴の人気が日毎に高まっていくそうです。でも時々、「えっ、これが冷奴?」ということを体験します。先日、あまり大きくはない中華料理店に行った時、冷たい豆腐にタレだけが付いているものが出ました。中華料理としては間違いではないだろうと納得はしました。しかし日本人が大事に守ってきた冷奴を、次世代にも残さねばならないと強く感じました。 「畑の肉」と言われる大豆は、動物性タンパク質に多いアミノ酸が豊富に含まれています。人の体は、血液などを含む水分を除くと約70%近くがタンパク質で構成されております。中でもトリプトファン、ロイシン、イソロイシン、バリン、スレオニン、フェニルアラニン、メチオニン、リジン、ヒスチジンの9種のアミノ酸は、必須アミノ酸といい、体内では合成できませんので、食べ物から摂取する必要があります。(スレオニンは読みの違いでトレオニンということもあります)
ただ大豆にはメチオニンが他のアミノ酸に比べて少ないのです。必須アミノ酸はタンパク質の材料となるのですが、その際少ないアミノ酸を基準に創られます。メチオニンが少ないと他のアミノ酸も、メチオニンを基準として創られるために、他のアミノ酸成分が余って無駄となります。他のアミノ酸の量を効率よく生かすためには、メチオニンを補っておく必要があります。
そこで登場するメチオニンの多く含まれている食材が、かつお節なのです。
昔の人は体験的に、大豆から作られた豆腐に欠けるメチオニンという栄養素を補うには、かつお節が最適と言いうことを知っていたのですね。
さらにネギをトッピングすることによって、豆腐に欠けているビタミンA、ビタミンCを補います。また生姜を加えることによって、暑さに負けぬよう胃腸の状態を正常にし、食欲を増進させます。だからこそ薬味と言えるのです。
冷奴とかつお節、ネギ、生姜は、相性の良い組み合わせです。単にかつお節を加えることで旨みを増すという単純な組み合わせでないことに、驚きを隠せません。
同様に、米に不足気味のリジンというアミノ酸は、大豆には豊富に含まれております。納豆をご飯にかけて食べることは最高の組み合わせです。納豆がどうしても食べられないという方には、ご飯と味噌汁の組み合わせが良いでしょう。
健康な体を維持するために欠かせないアミノ酸。米(ごはん)を主食として豆腐、味噌、納豆といった大豆製品を取り入れたことは、まさに和食の神髄であるといえますね。
日本人の先祖が伝え残してくれた和食をもう一度見直してみましょう。現代人ほどお肉を食べなくても、健康であった先人の知恵にただ感服するのみです。