第773話 わがよき友よ
下駄を鳴らして奴が来る♪
腰に手拭ぶら下げて~♪
と、かまやつひろしが歌っていた。「わがよき友よ」という歌だった。
私たちの世代はさすがに下駄や手拭ではなかったが、まだその雰囲気が分かる時代だったのでヒットし、若いころ私も持歌にしていた。
ある日のこと、大学時代の旧友からお米と蕎麦粉が送られてきた。
突然だったので驚いた。お礼に電話を入れた。
私が『新・みんなの蕎麦文化入門』を上梓したのを知って、購入して読んだとのことだったが、半世紀以上も経っているというのに、友の声は変わっていなかった。
彼は長野県塩尻市に住んでいた。退職後は田で無農薬のコシヒカリを育て、70歳になってから蕎麦打ちを始めたので、米は自分が作ったもの、蕎麦粉は仲間と打っている《奈川在来》ということだった。
これまで長野は何回も訪れていた。木曽の定勝寺見学、伊那の高嶺ルビー見学、戸隠の蕎麦祭りの取材。また塩尻、松本、千曲、長野での講演など。その度に彼の顔がチラチラと浮かんでいたが、たぶんお蕎麦とは無縁だろうからなんて勝手に思って遠慮していたが、まさか彼も蕎麦打ちをしているとは思いもしていなかった。「次回、松本方面に行くようなときは声をかけさせてもらうよ」と言って受話器を置いた。
《奈川在来》は蕎麦の香りが立って美味しかった。また有機栽培米の方はわが家の食卓に数日前から出ていて、一粒一粒がしっかり立ったご飯なので美味しく戴いている。
青春時代とは熱いものである。ゼミの友だから、たった2年間の付合いにも関わらず、永遠の関係が結ばれている。
しかしこのコロナ禍では、若い世代の青春は灰色に塗りつぶされているようだ。
感染症に対しては「撲滅」が基本だ。だから「ゼロコロナ」でいくべきところ、非専門家の政治家や経済人が「With コロナ」と嘯いてきた。「With・・・ 」というのは成り行き任せということの言い換えだと思う。
また病に対しては「早期発見、早期治療」が鉄則だ。だから早く検査・入院しなければならないところ、彼らは手をこまねいてきた。
結果、ほんとうにwithコロナの社会になってしまった。そのために将来ある若者や子供たちの青春を灰色にした。政治家・経済人の罪は大きいと思う。
〔エッセイスト ほし☆ひかる〕