第789話 ウクライナへの祈り
ある依頼が国立青少年教育振興機構からあって、その打ち合わせを参宮橋の蕎麦店「代々木屋」で行った。
なぜ参宮橋かというと、18時から同機構主催の「ENCOUNTERS in Ukraine」が代々木公園で開かれるから、参加しませんかということだった。だから、その前の30~40分ほどの打ち合わせとなった。
もちろん蕎麦屋さんだから、お蕎麦《鴨せいろ》をいただきながらである。そしていつも思うことだが、いただいた後の鴨汁の蕎麦湯は美味しい。
お蕎麦には、強烈な美味しさ、飽きないおいしさ、静かだけど何かキチッとした芯が感じられるおいしさというのがあると思うが、当店の手打ち蕎麦はその静芯なおいしさがあったから、満たされた。
それから、スライドトーク&ピアノライブ「ENCOUNTERS in Ukraine」に参加するために、オリンピック記念青少年総合センターに向かった。
スライドトークは写真家のT.T.田中さん、ピアノライブは作曲家・ピアニストの石垣絢子さん。写真もピアノも上手だった。写真の撮り方は写真家の叔父に似ているところがあった。
もし写真展だけ、あるいはピアノリサイタルだけだったら、知らないウクライナの光景、知らないウクライナの音楽にとどまっていたたろう。しかし今日は「スライドトーク&ピアノライブ」ということなので、ウクライの景色の背景にピアノ曲が流れていることから、ウクライナの人々の生が見え、ウクライナ音楽の息が感じられる。 報道されている破壊された街の方が嘘ではないかとさえ思ったほどだ。
ピアノ演奏は4曲だった。
・ウクライナ民謡「夢は窓辺を過ぎて」
・ミコラ・リセンコ作曲「ピアノ小品 作品40-1」
・ドミトリー・カバレフスキー作曲「ウクライナ民謡による7つの陽気な変奏曲」
・ミコラ・リセンコ作曲「ウクライナへの祈り」
「夢は窓辺を過ぎて」や「ピアノ小品 作品40-1」は、旋律が美しく、もの哀しい曲だった。むかし観た映画『禁じられた遊び』や『ひまわり』のテーマ曲を想い出させた。どちらもオリジナルのはずだろうが、『禁じられた遊び』はウクライナ民謡「美しい月光」をイメージして作られたという説もあるくらいだから、同じような哀調があってもおかしくないわけだが、これが民族の千年の旋律だろう。
この太陽系には地球を破壊とようとする魔モノがいる。
それが自然災害、悪いウィルス、侵略戦争である。
しかし人は、自然災害や悪いウィルスに対しては、諦めと挑戦とを同時に持ち合わせている。だけど人間による人間の侵略戦争に対しては、どうだろうか。その答えが、今宵の音楽の悲しい旋律のような気がする。
〔エッセイスト ほし☆ひかる〕