第790話 《へぎ蕎麦》と山独活

      2022/06/03  

   またまた、好き者のソバリエ北池袋chojuan」に集まった。
   お店の飯高さんご夫婦と、言い出しっぺの北川育子さん、蕎麦屋開店を準備している内藤さん、それに小生と、中心人物は新潟十日町小嶋屋の小林社長さん。
   新潟は郷土蕎麦《へぎ蕎麦》がかなり知られている。
   織物の産地の十日町で着物に布海苔(フノリ科の紅藻)を使用していたことから、それに倣って開発された蕎麦である。
   特徴は、①つなぎの布海苔はもちろんのこと、②へぎという角盆型の器、③そして一束ずつ丸く縒って盛るという珍しさが売りであるが、口にすると、独特の海の香りに加えて、喉の滑りがよく、かなり個性的な郷土蕎麦であると思う。
   今日は、この《へぎ蕎麦》を小林社長がお持ちくださった。しかも新潟産の山菜とともにである。
   山菜と聞くと、産地が故郷でもないのに、なぜか〝郷愁〟を感じるところがある。それ ― 野生の山独活あけびの蔓漉油アスパラなどの山菜 ― を小林社長がわざわさお持ちくださった。
   楤芽はこれまでも口にする機会はあった。漉油も長野の赤羽さんからいただいたことがある。でも、あけびの蔓は初めて食べたものだった。アスパラは八百屋にはあるが、今日のは驚くようにあま味があって美味しい。寒地のアスパラはあまいというが、本当だった。そして私は「山独活」がすっかり気に入った。
   独活には、土の上に自生している野生の「山独活」と、穴の中で軟白栽培された「白独活」がある。「白独活」は江戸東京野菜として知られているから、江戸ソバリ協会が展開している『新・江戸蕎麦ごちそう帳』シリーズで林幸子先生が《立川独活冷やし蕎麦》を創作してくれたことがあるが、おしゃれな装いで美味し蕎麦だった。
  しかし、今日の山独活は天麩羅と、〝生かじり〟。
  前味としての香り、本味としての歯応えと野趣味、そして後味の郷愁感。
 新潟の郷土蕎麦として《へぎ蕎麦+山菜》もありかなと思った。  
 ごちそうさまでした。

〔江戸ソバリエ ほし☆ひかる〕
写真:へぎ蕎麦と山菜
立川独活冷やし蕎麦