第402話 更科蕎麦と江戸野菜を味わう

     

更科堀井 冬の会

 この会食会は、いつも新しい料理との出会いがある。
いつものように、食材の選択は江戸野菜研究家の大竹先生、レシピは料理研究家の林先生、調理は更科堀井の河合料理長、主催は江戸ソバリエ協会と江戸東京野菜コンシェルジュ協会による、「更科蕎麦と江戸野菜を味わう会」も今日は6回目。
今回も美味しい御献立が揃った。

一、練馬大根と馬込三寸人参の蕎麦つゆ漬
一、谷中生姜シロップの蕎麦湯割
一、早稲田茗荷竹の蕎麦味噌添
一、品川蕪の揚げ浸
一、蕎麦の実と鴨叩の餡掛三河島菜き 生姜風味餡掛
一、牡蠣の千住葱衣揚
一、亀戸大根葉の練込蕎麦と 盛蕎麦と 亀戸大根汁そばつゆ
一、野良坊菜ペースト泡善哉

全てが創作料理の、フルコース。いつも林先生の創意レシピは大したものだと感心する。
わけても、今日はメインの鴨と牡蠣の料理が好評だった。

蕎麦の実と鴨叩の餡掛三河島菜巻 生姜風味餡掛
鴨叩と三河島菜が同じ軟らかさ、これは河合料理長の腕だろう。それに蕎麦の実がよく合う。こっちは林先生のアイディアだ。
三河島菜は、大竹先生によれば、江戸初期に三河國の百姓が現在の三河島辺りに入植して作り始めたという。江戸時代は漬物にしていたというから、やはり葉を活かして巻くというのが一番なんだろう。

牡蠣の千住葱衣揚
千住葱は根深葱の代表だ。生でも美味しくて、いくらでも食べられる。それをたっぷり牡蠣に包んで衣揚げにしてある。
口にするとカラリとした旨味を感じた。水っぽくないのは松島産の牡蠣の特徴だから、「更科堀井」の定番食材だという。
そういえば、デパ地下に行けば、生食用の牡蠣は海水などに入れてあるが、揚物用は水なしで売られている。
日本人は牡蠣好きが多いと思う。女子だけで牡蠣を食べ歩く会を「女子貝」というらしいが、ついつい笑ってしまう。
東京の友人に《牡蠣フライ》が大好きな男がいたが、今日の最高の牡蠣揚を食べさせたら、感激するだろうと思った。
かくいう私は、実は《生牡蠣》派だ。故郷佐賀の有明の海は弥生時代からの牡蠣の産地だから、生で食べることが多かったのだ。
松島同様、江戸時代からの牡蠣の名産地広島に妹がいるお陰で毎年、《生牡蠣》を賞味できるのを幸せだと思っている。
佐賀有明海の牡蠣は《スミノエ牡蠣》という。
吉野ヶ里遺跡からは土器で煮た《スミノエ牡蠣》が出土しているが、吉野ヶ里人は、煮たばかりの、熱々の牡蠣をどうやって食べたのだろうか?と疑問がわく。おそらく、周りに落ちていた木の枝で突き刺して口に持っていったのだろう。
この《スミノエ牡蠣》は大きい。それを佐賀では《牡蠣》といわずに、《せっか=雪花》とよんでいる。聞くところによると、中国でも《雪花》というらしいから、それが伝わったのだろう。
この大きい《せっか》は、旨味の元のグリコーゲンも豊富だ。余談だが、江崎利一が、この《せっか》のグリコーゲンを加工してお菓子として売り出したのが、現在のグリコであることは、県民は佐賀のサクセス・ストーリーとして誰でも知っている。

今日の締めは、《亀戸大根葉の練込蕎麦と亀戸大根汁そばつゆ》。私たち江戸ソバリエにとって興味深い逸品だ。
亀戸大根は色白の美人だ。その葉を練込んであるから蕎麦切も美しい。さすがは「更科」である。それを大根+つゆと食べる。つまりは葉と根を食するというわけだ。これは林先生のアイディアだ。
この会は、いつも楽しく美味しい料理。だから幸せな時間が何ともいえない♪

☆絵:三河島菜・生牡蠣

〔文・絵 ☆ エッセイスト ほしひかる〕