第609話 第33回深大寺蕎麦を味わう集い

     

年末恒例の深大寺蕎麦を味わう集いが開催された。張堂ご山主はじめ7人の僧侶による読経が終わると、蕎麦会である。
今年の深大寺蕎麦の収穫は約60㎏弱、多い年の半分であったという。台風の影響である。他でも、「千葉在来の収穫は例年の半分だった」と、千葉在来普及協議会の小林照男さん(江戸ソバリエ)が言っていた。これが自然を相手にする事業の厳しさだ。
さて、今年の深大寺蕎麦会は、その深大寺蕎麦と、秋田・白神山地産の蕎麦が振舞われた。白神山の蕎麦汁は比内鶏と牛蒡で出汁をとった汁だから《きりたんぽ》流だろうか。鰹出汁とはちがう味覚であった。
ところで、今年の調布はラクビーで熱かったが、また来年も調布とくに深大寺は賑やかになりそうだ。というのは、国宝の白鳳仏が安置される南岳白鳳院が建てられる計画があるというし、春には元三大師が十年ぶりの御開帳の予定だそうだ。十年前に拝観したときその巨大さに驚いたものだが、あれからもう十年も経ったのかとも思う。さらには、調布市のオリンピック聖火は7月16日に深大寺から出発することになっている。ちょうど恒例の夏蕎麦の集いの頃である。だから江戸ソバリエも無縁ではないだろう。
今日の蕎麦会には江戸ソバリエ関係者もたくさん同席していたが、そのうちのお一人である江戸東京野菜研究家・大竹先生(江戸ソバリエ講師)は江戸の辛味大根を採種し、育てることに成功した。
かつての江戸の辛味大根は《赤山大根》(埼玉県川口市)が使われていたらしい。だが今はない。だから大竹先生に「江戸の辛味大根を探してほしい」と依頼していたところ、皇居の江戸城の濠近辺で採種できた。それゆえに名付けて「江戸城濠大根」という。私も種をもらったので何人かのソバリエさんに配ってみたら、高橋正さんなどが大きく育ててくれた。
大竹先生も何人かの農家さんに依頼し、皆さんは、一、二年かけて農作物として立派に育ててくれた。その辛味大根は、過日「栃ノ木や」さん(江戸ソバリエの店)で試食会を開いてみたが、次回は更科堀井の冬の会の料理で本格的にデビューしてもらうつもりだ。さらには、大竹先生と「来年の12月24日の深大寺蕎麦会でも【深大寺蕎麦+江戸城濠大根】という武蔵国の組合せができれば、楽しいですね」と話し合ったりした。
こうした辛味大根への思いも、思い付きから三、四年は経っているが、これも人と人とのご縁から生まれたことである。
このとき、司会者の林田堯瞬師料理研究家の冬木れい先生に一言ご挨拶をと求めた。この冬木先生とのご縁でもたくさんのことが生まれた。もっとも美味しい出来事が《胡椒切り》の実現(「栃の木や」にて)であった。また来夏には、冬木先生のご出身地である栃木市の江戸学のススメで「江戸蕎麦」について講義ことになっている。
「宴会は縁会」でもある。ご山主様なら「それが仏縁」とおっしゃるだろうが、とにかく多くの人とのご縁から新しい世界が作られる。来年はどのような新世界が展開していくのだろうか。

文 ☆ 深大寺そば学院 學監 ほしひかる

写真:大竹道茂 (白神山の蕎麦ときりたんぽ流汁、左:ほし、右:料理研究家冬木れい先生)