第278話「ダッタン人の踊り」

     

イラスト☆ほし

「ダッタンソバはsobaか?」
2月に筑波大学春日講堂で開催された「第15回ソバ研究会」(主催:筑波大学農林技術センター)のテーマである。
刺激的ではあるが、ルチン含有量が普通ソバの100倍あるというダッタンソバを採り上げてみようというわけである。
開会挨拶の中で世話人代表である林久喜教授筑波大学生命環境系教授、江戸ソバリエ・ルシック講座講師)は考え方として、「ダッタンソバは新規作物と考えた方がいいのではないか」と提案された。
その上で話題提供として、農研機構北海道農業研究センター・森下敏和氏「ダッタンソバの育種」、農事組合法人信濃霧山ダッタンそば・北村よう子氏「ダッタンソバの栽培」、伊藤園マーケッティング本部小笠原嘉紀氏「ダッタンソバの利用」の発表があった。

北農研の森下氏は、これまで育成されたダッタンソバの品種は13種。うち「北海T8号」は北海道を中心に約200ha栽培されており、また新しく育成した「満天きらり」はルチン分解活性が極めて低く、苦味の少ないのが特徴であるとして、現在北海道雄武町を中心に約160haで栽培されるまでに広がったと発表された。

伊藤園の小笠原氏は、①ドリンク「そば茶」の発売はソバの新しい摂取方法である。②わが国がさらなる高齢者市場を迎えるときのキーワードは、「健康」 「こだわり」 「適量」であるとし、古来から日本人に好まれてきた蕎麦を使用した健康飲料「そば茶」(韃靼蕎麦と玄蕎麦をブレンド)を市場に投入していると発表された。

この中で、私が一番胸に響いたのは、林先生の「新規作物と考えた方がいい」ということと、小笠原氏の「ドリンクという蕎麦の新しい摂取方法」という言葉であった。両方とも「新」ということがキーワードである。

話は飛ぶが、ある蕎麦会が開かれるとき、私が「ダッタン蕎麦茶とダッタン蕎麦カステラを持参する」と幹事さんに伝えたところ、その幹事さんは「ダッタン人の踊り」のCDを用意されていた。
これには驚いたが、とにかく音楽を聞きながら、私たちはカステラとお茶をいただいたのであるが、ご承知の通り「ダッタン人の踊り」というのは、聞いていると不思議な力を感じさせる。
曲は、12世紀末の叙事詩『イーゴリ軍記』をもとに19世紀後半に作られた歌劇『イーゴリ公』(ボロディン作曲)の中の1シーンである。
作曲したボロディンは、民族音楽の技法を巧みに織り込むことによって、ロシアの英雄イーゴリ公と遊牧民族の大将コンチャック汗が互いに相手を敬う気持を表現した。このボーダーレス感が新しい事の始まりの予感を醸し出しているのである。

このように、異文化の技法を採り入れることによって新しい物を開発するのがアイディア誕生の王道であろう。だが、それは言うに易く行うは難しである。
それだから、伊藤園が発表した「ドリンクという蕎麦の新しい摂取方法」― 緑茶、紅茶、ウーロン茶などの既存茶群に、新しくそば茶を加えたということが胸に強く響いてきた。
それゆえに、素麺、饂飩、蕎麦切、ラーメン、焼そば、カップヌードル、パスタなどの既存麺群の他に、ダッタン蕎麦は新規作物と考えた、新しい感覚のダッタン麺を期待したくなる。
料理研究家の辰巳芳子さんも「行き詰まりは、異文化導入で突破口が見つかる」とおっしゃっている・・・・・・。

参考:筑波大学農林技術センター主催「第15回ソバ研究会」、ボロディン「ダッタン人の踊り」

〔江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる