第288話 一つの作品として

     

第12期認定講座募集要領

今年も、江戸ソバリエ認定講座を開講しようというとき、丁度フードビジネス交流会という会で、江戸ソバリエ認定事業について話さないかという打診があった。
いい機会なので、頭の中にあることを取り出しててみたが、一人よがりのことが多くなってしまった。
皆さまにご理解いただけたかどうかと心配である。
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私は、話すことより書くこと書くことより企画することが好きである。企画した場合、それを「一つの作品」と考えることにしている。

いろいろな企画の中で「江戸ソバリエ認定講座」は最高の作品だと思っている。
その事業を運営するに当たっては、ない智恵をしぼっていろいろと工夫を試みた。

1. 先ずは、体制である。何事も一人ではできないのは当然だが、任意団体の場合、会社のような上下関係は成立しない。仲間は同志だというのがスタンスだろう。
そしてその上で、私たちは講師の面倒をみるのではなく、受講生に勉強していただく、つまりはあくまで当方と講師と一緒になって教育事業を行おうという方針から、体制を「実行委員会」とした。よくある「事務担当」「事務局」という役名は避けた。これには多少戸惑った方もおられたが、今はもうそんなことはない。

2. 次が、科目の組合せである。われわれの勉強会の対象は食べ物である。それなら「食べてみなければ始まらない!」「作ってみなければ始まらない!」、そして「食べる、作ることの他に学ぶことは!!」というわけで、「座学+体験学」の組合せを特色とした。
この組合せシステムも初めのころは複雑で理解できないといわれたものだったが、最近は他所の勉強会でも、このような傾向になってきた。

3. 三つめは、講師である。教育事業なら講師は「専門家」でなくてはならない。ところが、これがあんがい難しい。特に「専門家」と名刺に書いてあるわけでもなく、また「先生」だからといって、必ずしもこちらが望む専門家だとは限らない。それを判断するためには、当方も勉強しなければならないし、幅広く社会を知ってなければならない。
それから注意すべきは講師の方の心構えである。なかには「ぼくは、蕎麦はあまり好きではないけど・・・・・・」みたいなことから口火を切られる方がいらっしゃるが、これでは蕎麦好きの受講生に気持は伝わらない。だからとって、先生方が勉強会でのお立場がお分かりになってない、というわけではない。それは、いわゆる「事務方」(実行委員会)が当会の趣旨なりをきちんと理解していただくような努力を怠っているからである。
似たようなことがある。逆に私がある会で蕎麦の話を依頼されたとき、話が終わってから、「事務局」の方が一番最初に「なるほどね。しかしぼくは、四国出身だから、正直言ってやはりうどんだナ~。ところで、皆さん何かご質問は・・・・・・」ときた。その方はこれを機会にオクニ自慢をされたのである。しかもその方は場の空気が白けたことにも気づいておられなかった。勉強会は、代表者の自己満足のために行っているのではない。みんなの会である。そういうスタンスが大事である。

4. 四つめは、「資料集」である。だいたい講習会というのは各講師が資料を作ってきて配布するから、その形式はバラバラである。一人だけの講師のときはそれでもいいが、当会のように幾つもの講座を設定しているときは、紙の大きさ、縦横型、字体、文字を統一した方が受講生にとっては読みやすいにきまっている。たとえば、A講師は「ソバ」と書き、B講師は「そば」と書いておられるときは、どちらかに統一させてもらっている。番号なんかもそうである。しかし、講師はご自分の著作を変更されたように嫌がられるが、受講生の手元に渡る資料集は論文集ではない。教科書というひとつの作品である。当然ながらなるべく統一を図らなければならない。

5. 五つめは、「レポート」である。体験したことは記録しておこうという考えから、卒業レポートを提出してもらうことにしている。
よく、卒業は試験方式と発想しがちだが、それは丸暗記法からくるものである。そうではなくて受講という体験を意味あるものにしてもらいたいのである。ただし、最優秀者以外は公開しない。文章というのは公開を原則にすると、励みになる方もいらっしゃる一方、萎縮される方がおられるからだ。

6. 最後は、関係者である。私は会場にいらっしゃる人たち(スタッフ)は皆、事業運営に協力していただく仲間として開会時にご紹介する。
たとえば、出版社である。講演会などでは講師のご著書を販売している場合があるが、講師の方はよく「宣伝めいて恐縮ですが・・・・・・」なんておっしゃる。控えめな点はいいとしても、それでは出版社の人が悪いことでもしているようでかわいそうだ。「あの会社はいい出版社だ。著書は私の渾身の作だ」ぐらい言えばいいと思うのに。

7. まだまだあるが、気づいたことは誠意をもって対処したいと思っている。
とにかく、受講生は女性・男性、若い方・高齢者と様々である。それ故の緊急連絡者の確認、衛生管理者・名簿管理者の体制が必要だし、付随して会場の冷暖房、トイレ、非常階段、AED、医療機関の事前確認がそれなりに必要だ。さらには名札、会費、名簿管理、通帳管理などの心得とか、問題点もたくさんあるが、それはまたの機会に譲るとしよう。

8. ところで話は変わるが、「食の革命家」といわれる鎌倉時代の道元禅師は料理人の心得『典座教訓』と、食べる側の心得『赴粥飯法』の両者を述べた。それは、料理は作る人と食べる人が共同で作り上げるものだという思想からだ。
このような視点は教育関連であっても同様だろう。
共同でする「実習(=手学)」を講座に組入れたのもそのためだし、マナーを意識してもらうために「食べ歩き(=舌学)ノート」も講座に加えた。そして、「卒業してからが始まりだ」を合言葉に、卒後に江戸蕎麦を楽しむ仲間づくり(江戸ソバリエの会)の会を望んだ。
また、運営側の心得受講側の心得ということがある。これは共同で講座を作り上げようということだ。
事業を始めた12年前は実行委員会(事務局+講師)が一つになろうという方針をとった。もちろんそれは今でも変わらないが、私たちは「道元」を念頭において、さらに講師側と聞く人たちの垣根をもっともっとなくしたいと思っている。
そのためには、「隗より始めよ」ではないが、いわゆる「事務方」(実行委員会)が先ず温もりや熱意や誠意を発信しなければならないのかもしれない。最近、ジャズのライブを実行していて、そう確信した。
そうして積み上がったノウハウが、少しでも世間の勉強会のモデルにでもなれば幸いだ。

蕎麦の花 手打ち 蘊蓄 食べ歩き 粋な仲間と楽しくやろう

〔江戸ソバリエ認定委員長 ☆ ほしひかる