第343話 バレンタイン猪口

     

002ほし ☆ 作品

バレンタインデーの前日にデパートに行った。いつもの洋菓子売場はチョコレートに占拠されているけど、日が日だから仕方あるまい。と思いながら、用事のある7階へ上がったところ、何と全フロアーが世界のチョコレートと女性の大洪水。人を掻き分け掻き分け、やっと目的の所へ泳ぎ着いたが、まあ驚いたの何のって・・・!
報道によると、チョコレートの2月の売上は年間の25%を占め、1人当たり消費量は年々増え続けているという。
以前は「義理チョコ」というのがあったが、今は「友チョコ」もあるらしい。それだけに「恋人」→「義理の人」→「友だち」というマーケットが拡大しているということだろう。売上高が伸びるのも当然だ。
しかも最近は、産地別や出来立チョコなどバリエーション豊かなテイストが流行りだという。なかなか本格的だ。
そもそもチョコレートというのは、メキシコを征服したスペイン人が自国に持ち帰ってからヨーロッバに広まったというから、歴史は500年弱。日本には明治時代に伝わって凮月堂が「貯古鈴糖」の名で販売、大正時代に森永製菓が量産を始めてから馴染みとなった。

一方、われらの蕎麦は歴史が古く、日本に伝わってからも550~560年は経っている。
その売上はといえば、年越蕎麦の時季である12月が飛び抜けて多いが、それでも年間売上の約15%ていどで、チョコほどではない。
そこでチョコに倣い、「家族ダンラン年越蕎麦」、「夫婦シミジミ年越蕎麦」、「恋人ランラン年越蕎麦」なんていう風に、順次マーケットを拡大していったらどうだろう、と思ったりする。

さてバレンタインデーだけど、私も、あるソバリエさんからチョコを頂いた。
それなりにトキメキながら、パッケージを開けると、何と蕎麦猪口の中に手作りチョコが入っていた。外側には抹茶がマブシてあって、甘さを渋味で包んである。素敵な味覚だった。
それにしても猪口にチョコを入れるとは、憎いネ。さすがはソバリエさん!
そこで思ったけれど、いっそのこと、この日をソバリエでバレンタイン猪口の日にしてしまおうか!と。
でも、これは日本酒好きの人にも通じるな。

「素敵だね」 君がくれたから 二月十四日は 猪口記念日

ム。どこかで聞いたことのある歌だ。そうだった。『サラダ記念日』だった。
「この味が いいね」と君が 言ったから 七月六日は サラダ記念日

参考:俵万智『サラダ記念日』

〔エッセイスト ☆ ほしひかる