第520話 大学ゼミへの期待  

     

親しくさせて頂いている大妻女子大の松本憲一教授に、ゼミの学生さんのある研究レポートを見せてもらったことがあった。それを見た私は、〝何か〟を感じるところがあって、「機会があったらゼミに参加させてほしい」というようなことを申上げていた。
ある日のこと、先生からお電話を頂いた。「学生の発表会をするので来ないか」ということだった。
さっそく九段坂の大妻女子大に赴いた。女子大だから当然だが、校内を歩いている人もエレベーターに乗っている人も、100名を越す人たちが昼食をとっている食堂も全員女性である。 
そんな中を7階まで昇って家政科食物栄養専攻松本ゼミの教室を訪ねた。
学生は一年生14名。皆さん、私から見ると孫みたいにかわいい女子である。
研究テーマは「麺の食文化」、今日はその発表会だという。
だから、松本先生は声をかけてくれたのだ。
発表は、①うどん班、中華麺班(②つけ麺チーム、③ラーメンⅠチーム、④ラーメンⅡチーム)、スパゲッティ班(⑤スパゲッティⅠチーム、⑥スパゲッティⅡチーム)、⑦エスニックヌードル班、それに⑧蕎麦班の、5班8チームに分かれていた。
麺類が網羅されているところが素晴らしいと思った。ただ、若者の選択だけあってラーメン、スパゲッティは人気が高いようである。
発表は、いずれもその歴史、現状、創作料理という構成であった。うどん、ラーメン、韓国の冷麺、スパゲッティ、そしてタイ、マレーシア、ブータンの麺の歴史は正しかった。
栄養士の学生に歴史をも押さえさせようとするのは松本先生のような円熟した指導者の賜物だと思った。
たまにだが、学生の研究論文を読んだとき違和感を感じることがある。たとえば、某校であったが「うどんのコシの比較」という論文を見たことがある。興味深いと思ったが、前文が「うどんにコシがあるのは当然」みたいな書き出しだった。私から見ればうどんでコシを言うようになったのは近年のことであるからスタンスが違うなと思ってしまう。それで指導教師を見てみると、若い先生だったりする。指導には深さがないといけないと思う。
ところで、一般的には食べ物の美味しさというのは甘・鹹・旨・辛・酸・苦・渋などによって決定される。麺の場合、それは主として汁に現れる。その点も出汁や、味噌・醤油・塩味などの調味料の現状比較をした発表もあった。
また、麺類の美味しさは、製粉(粗・微)、加水(多・少)の程度、そして麺の長・短、幅の太・細や、温度などの物理的要素に左右されるが、そのことにふれているものもあった。たとえば、多加水麺は濃口汁、低加水麺は淡口汁が合うとか。また麺の太さの問題など。こうしたことは店の美味追及姿勢の比較につながる。
私たち蕎麦人(玄人・素人)は、蕎麦が立地点であるため、うどん・ラーメンを否定しがちである。それはそれで物事を深める価値はある。
一方では、麺類を総合的に、比較研究する必要性があることはいうまでもない。そうすれば、麺類各々の美味しさが追及されることになるだう。
しかも発表からでも分かるように、アジア人は麺類が大好きである。
なのに、麺の研究はあまりなされていない。研究者が少ないのである。
だから、大学のゼミの学生さんに期待したいわけだ。それが最初に感じた〝何か〟であった。
さて、最後の蕎麦班はというと、何と松本教授みずからが次回のゼミの時間に発表されるとのこと。そこで宿題が出た。
ダッタン蕎麦の乾麺が配布され、「これで創作料理を考案してみてください」というわけだ。こういう場合こそ、若さが発想を発揮する。次回のゼミが楽しみだ♪

〔文・挿絵 ☆ 江戸ソバリエ協会 理事長 ほしひかる