第588話 果物の女王とフルーツの王様
夏になると、友人からたくさんの桃を頂き、北海道の親類からはメロンを頂く。 桃というのは香り、色、やわらかさ、甘い味が女性的で幸せに包まれたような感じがする。一方のメロンもまた香り、色、甘い味に浸ることができる。
世の中に果物が大好きという人はいるもので、俳人の正岡子規はその食べた記録を克明に書き綴っている。
それを読んだとき私は、江戸ソバリエ認定講座の蕎麦食べ歩きノート「舌学ノート」を発想したものであった。
それを思い出し、この夏、また桃とメロンを頂いたときに、記録として絵に描いてみようと思い立った。しかし両方とも難しい。よく子供さんの絵には夏なら西瓜が必ず登場するが、やはり描きやすいところがあるからだろう。だが、桃やメロンは子供さんの絵にはあまり登場しない。それは描くのが大変だからということがよく分かった。
桃を見たり食べたりしていると、包まれるような優しさがある♪ 林檎や苺にはないこの包まれるようなふわっとした優しさをどう表現すればいいか?
メロンの緑色の皮のひび、何だこれは! これがあるため描こうとする者を寄せ付けないのではないか! このプライド高い筋をどう描けばいいのか?
苦労しながらできた絵は下手だが、まがりなりにも桃の優しさ、メロンのプライドという課題はクリアすることができたのではないかと思った。
そして描きながら思い至ったのは、桃は果物の女王、メロンはフルーツの王様ということだった。
〔文・挿絵 ☆ エッセイストほしひかる〕